長編SS

□first down
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視界の中に揺れた、自身の長い髪が急に鬱陶しく思えて。

いつも着ている黒っぽい団服にいたたまれなくなって。

自分の足から離れない『黒い靴』がいつも以上に嫌だと思った。

だって、だって。

夢の中の『あの人』は、もっとずっと短い髪で。

柔らかな色の服を着て、可愛い靴を履いていた。


「…――――」


リナリーは思わず、一歩二歩と下がって彼から距離を取る。

顔が上げられない。

目の前の幼なじみからは痛いほどの視線を感じるのに。

心配かけてしまっているのが分かれば分かるほど、どうしていいか判らなくなる。

心音が早い。呼気が乱れる。

少女はたまらずにぎゅうぅっとスカートを両手で握りしめて、息を吸い込んだ。

「…かッ、神田は…ッ」

全力疾走の後のような、せわしい頭痛を感じて。

「み…短い髪の方が好き?」

真っ白な思考の中。搾り出すように口を付いて出たのは、そんな言葉だった。


「……………あ?」


数瞬の沈黙の後。

相手が漏らした声に思わず顔を上げれば。

ものすごく不可解そうな顔をした彼がそこにいて、ようやく彼女は我に返った。

…何を、口走っているのだろう。自分は。

「ご、ごめんなさい!」

慌てて口元を押さえて、逃げ出すべく回れ右をするが

「…リナリー!!」

向こうから追いかけてくるリーバー班長達が見えて、またも方向転換を余儀なくされた。

神田の傍を通り過ぎるのはとてつもなく抵抗があったけれど背に腹は変えられない。

とにかく、今は全部から逃げ出したい想いでいっぱいだった。

―けれど。

「神田! リナリーを捕まえてくれ!!」

速度を上げるよりも先に、班長の叫びが飛んで。

神田が弾かれたように少女の腕を取った。

互いの勢いがあまってリナリーは彼の懐に飛び込むような格好になり。

図らずも深く抱きとめられてしまった彼女は


「きゃあああぁあああっ!!!」


…堪えきれずに悲鳴を上げた。
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