D.G-SS.B
□天使の残滓
1ページ/1ページ
ふわり、ふわりとした羽のようなぬくもり。
耳に触れる楽しげな声。
見上げてくるのは柔らかな光を宿した瞳。
「――――…」
静かな自室で、薄汚れた天井を見上げる。
つい先刻までこの腕の中を定位置にして微笑っていた存在はもういない。
「いってきます」
遠隔地への任務。
頬へのキスと笑顔と、出立の言葉を残して。
ただそれだけのことなのに、先刻から纏わりつくような滓(おり)が何とも不可思議で、ままならない。
呼吸を繰り返す肺の中で快と不快とが入り雑じり疼く。
鬱陶しく思いながら呼気を吐き出し、身動ぎした途端、彼女の移り香を知覚して、眩暈がするような感覚に襲われる。
苛立たしげに髪をかきあげて、舌打ちを一つ。
この場に居もしないくせに、どこまで掻き乱せば気が済むのだろう。
ああ、ああ、なんて愛しくて憎らしい。
一体どうしたら、この燻ぶる深層は穏やかに静かに凪ぐのだろうか。
…残るぬくもりと香りとを抱き潰して、酷薄に嘲笑った。
天使の残滓
いっそ、羽をもぎ盗って
繋いでおこうか
END
Blog掲載SSS。
神田さんが神田さんじゃない気がしたり
Title by 『Iolite drop』