D.G-SS.B

□19th moon
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絡む指と視線。

熱を持つそれが、始まりの合図。





19th Moon





とくり、とくりと穏やかに繰り返す鼓動に耳を寄せる。

日付も変わっているだろう、深い闇に覆われた真夜中。

教団内で一番、宇宙(そら)に近いこの場所で二人きり寄り添ってるなんて誰も知らない。

今はさらしに覆われている彼の胸に頬を触れさせて。その鼓動と体温を確かめていると安心する。

それは二人がまだ『世界の中』に居ることを教えてくれるから。



「…臥待月」

「え?」



耳慣れない発音に顔を上げれば、彼は空を仰ぎ欠けた月を見つめていた。

…その指が、私の肩を滑る。多分無意識に。



「19日目の月は昇って来るのが遅いからな。臥して待つ月だと…昔から言うんだ」



天に懸かる歪んだ銀盤に注がれ続ける視線。

闇の中であっても光を失わない漆黒の瞳。

零れるように降る月光だけが、淡く白の輪郭を浮かび上がらせる世界。

…急に、胸元へ冷たいものが落ちた。

ついさっきまで二人のものだと思えていた空気が違ってしまっていたから。



「…かんだ?」



思わず漏れた声は、我ながらずいぶんと甘えた響きを持っていた。

その事に躊躇いを覚える間もなく、彼の真っ直ぐな視線が降りてくる。



「何だ」

「ううん…」



呼んでしまったことを後悔して目を伏せながらも。

その瞳を月へ戻して欲しくなくて、続きを呟く。


「…日本では日ごとに月の呼び方が違うの?」



尋ねながら、見上げる先。

私だけを映す漆黒の、その更に背後には我が物顔の月が控えていて。

また肩の辺りを彼の指が滑っていった。



「全部が全部、細かく決められてるわけじゃねぇが」



応えて、伏せられる瞳。

見慣れたその長い睫毛も艶やかな黒髪も、等しく月光に撫でられ淡く飾られている。

…会話を途切れさせてしまうのがどうにも怖くて、問いを重ねた。



「じゃあ、明日の月は?」

「…更待月」



吐息のような答え。

伏せられていた漆黒の光が持ち上がり、中空へとその先を求める。



「今日の月よりも、更に、もっと、待たないと拝めない…」



呼気に合わせて紡がれる言葉。

優しくも冷たい光の下で、唐突に理解する。

…ああ。

彼は、そこにある月さえも本当には見ていないのだと。

神田が意識を向けるのは、月を通した更に奥。ずっともっと先に在る…『何か』

たまらずに、詰めていた息をゆるゆると吐きながら彼の肩口へと頭を預ける。



「…寒いのか?」

「………うん」



彼は羽織っていたコートを寄せて、腕の中の私ごと包み込む。

それでも足りなくて彼の膝の間に在る自分の体を更に擦り寄せ、首に腕をまわした。

すると長い指が降りてきて頬を滑り、唇に吐息を感じて。

距離が、ゼロになる。

…熱をちょうだい。

この深夜の冴え冴えとした月さえ暖かく感じるように。




19th moon




毎日違う、その月を
いつまでも一緒に数えられたら













End.




2008.11.4






旧本部。塔の天辺。
文字通りの『密会』があったら素敵。










お世話になっておりますKIYONOさま宅の、神田の涼しげな瞳とリナリーの切なげな瞳を見ていたら降りてまいりました。

そんなわけで、奉げ(押し付け)させて頂いたSSです。



…そうしましたら何と!
これのイメージ絵を描い下さいました!!
まさしく『海老で鯛』!!
容量の関係でPCサイトにのみUPしてあります
PC立ち上げでお願いいたします

『M E T R o N o M E』様/KIYONO様
PCサイト様ですので同じくPC立ち上げでジャンプしてください





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