D.G-SS.B

□クリスタルグラスが割れた
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深々の闇。

一寸先も見えないようなその中に、キャンドルが燈って。

二人の姿と飾られた食卓だけを浮かび上がらせる。

あぁ、なんて幻想的。

「食べないのぉ? アレン」

「いりません」

きっぱりと言う彼の左手はまだ猛々しい爪のまま。

「いいじゃない、オシゴトは今さっき終わったでしょぉ?」

「終わったなら、帰ります」

つれない返事。

射抜くような視線。

こちらを拒絶した、ううん、拒絶しようと努める瞳。

ゆらゆら、ゆらゆら。

その瞳に宿る光が揺れるのは、キャンドルの灯を映してるってだけじゃない。

…そうだよね?

笑みを深めて、彼の傍へとふわり、降り立つ。

「ねぇ、アレン。ここは僕の世界なんだよぉ?」

ぎくりと身を強張らせ、下がろうとする身体を許さず、その首に腕をまわして。

「今は、本当に二人っきり、デショ?」

「…ッ……!」

顔を歪める彼に、くすくすと笑いながら距離を詰める。

殺りたかったら殺ればいいのに。その爪で。

添う体温。近づく鼓動。

もはや二つを隔てるものは何もない。


触れた、熱。



そうして二人以外の世界全てを否定した。

突き放された煌めきが、澄んだ音を立てて、墜ちて、砕け散る。



クリスタル・グラスが割れた



真紅が広がっていく




馨しき芳香と焼くような苦味

…まるで二人の運命みたいな




end.


2008.7.1







Title by 『Iolite drop

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