D.G-SS
□Secret Birthday
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「ユーくーん! お誕生日おめでとー!!!」
教団中に響きわたる声。
見やれば、それはそれは可愛らしくリボンでラッピングされた巨大プレゼントを抱えて、ティエドールが廊下を闊歩している。
「ユーくーん!! 隠れてないで出ておいでー!!!」
きょろきょろして、時折声をかけるが、もちろんそれに対する返事はない。
それにたまたま出くわし、彼の背中を見送ったラビとリナリーが笑いをこぼす。
「今年もまた、元気さぁ」
「ほんとにね」
リナリーは堪えきれずにくすくす笑い、ラビは苦笑。
「神田のことだから多分、朝一番で逃げ出してるわよ」
年々大げさになる元帥の行動のせいで、今では教団のほとんどの人間がこの日のことを知っている。
去年、初めてそれを目の当たりにして、後日、神田をからかったラビは殺されかけた。
初対面の時同様、リナリーが止めなければ六幻の錆にされていたところだ。
そんなふうにからかい交じりな連中や、ティエドールを初めとしたあくまで熱く祝おうとする面々を厭い、神田は、毎年この日になると任務がない場合は完全に雲隠れしてしまう。
今日もまったく姿を見ないので、きっとどこかに身を潜めているのだろうとひとしきり笑い合って、二人は別れた。
その後リナリーの方は、食堂に寄って頼んでいた品を受け取り、自室で準備を整えると、教団の、普段は使われていない区域へと足を進めた。
人気のない、暗い石造りをひたすらに昇っていく。
広さと複雑な造りを持つ城の中。どこを歩いているのか、実を言えばリナリーにも分かっていないが、要は辿り着ければ問題はない。
やがて、鍛えた体でもうっすらと汗をかいて、一息つきたくなる頃。
階段を上がれば、少しだけ開けた所に出る。別段部屋があるなどというわけでは無く、単なる通路と通路のつなぎ目、階段の踊り場のような場所なのだけれど、確かにそこにはある程度の空間があって。
彼女が微笑んで見やるその先に、果たして彼の姿はあった。
六幻だけを携えて、黙ってこちらに背を向けている。
「―神田」
呼べば、少しだけ振り向き、一瞥をくれた。
リナリーは笑って、ゆっくりと歩み寄ると彼の隣りに座った。
そうして、持ってきた荷物を解く。
「お蕎麦じゃないけどね」
お手製のサンドイッチやらを広げて差し出すと、彼は存外素直にそれを手に取る。
黙々と食事を始めた相手に、少女はちょっと首を傾げた。
もしかしたら、朝どころではなく、日付が変わる直前くらいにはここに来ていたのかもしれない。
それぐらいはやりかねないと、内心で笑いを零す。
・・・祝わせてあげればいいのにとリナリーは思うのだが、神田にはどうしてもそれが苦痛らしい。
ここは、昔二人で城を探検していて見つけた場所だった。
なんて事はない、ただ他の人間は来ないというだけの空間。
実際には、教団のどのあたりに位置するのかも知らない。
いつも体が覚えている通りに進んで、そろそろだと思う時に着くから、同じ場所なのだろう程度の認識だ。
それでもリナリーには分かってしまう以上、隠れるには適しているとは言えないのに、神田は誕生日の度に逃げ込む場所を、ここ以外に変えたことはない。
リナリーも、彼の居場所を知る事実を人に話したことは無かった。
そして、こっそりこの場を訪れて。
ただ一言だけ、伝えに来るのだ。
彼女はそっと相手の肩に頭を乗せ、瞳を閉じて唇に柔らかい笑みを刷く。
「お誕生日、おめでとう」
呟くと、やがて小さく、ああ、とだけ言葉が返った。
Secret Birthday
祝わせてくれて
どうもありがとう
END
2009.6
神田さん18歳バースデーSSです
(アレン入団前ね)
リナリーにだけは当日に祝わせてくれるといいなぁというお話