D.G-SS
□trick or treat!
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「trick or treat!」
扉が開く音と共に幼い声が言う。
振り返れば、ジャック・オー・ランタンと魔女の帽子がそこに居た。
いや、正確には魔女の帽子をかぶった少女が、だが。
大きすぎるそれに乗っかられているような状態ながら、彼の幼い娘は楽しそうに駆け込んできた。
「trick or treat!」
恐らくジェリー作と思われるミニサイズのランタンをくるくると振り。
満面の笑みで繰り返して、期待に満ち溢れたキラキラした瞳で見上げてくるから。
神田は用意していたチョコレートを彼女へと差し出した。
…すると。
予想に反して、少女は喜ぶどころか絶望の淵に立たされたような顔になった。
リナリーそっくりの面を泣きそうに歪めて父親を見上げ、やがて肩を落とす。
入って来た時とはまるで別人のような足取りで、すごすごと部屋を出ていく。
これがオオカミや猫の仮装なら尻尾と耳が垂れ下がって見えそうなほどの憔悴ぶりに、神田は眉根を寄せた。
「………?」
意味が、分からない。
昨年は何も用意していなくて、一日中騒がれたのを覚えていたから今年はちゃんと対処したつもりなのだが。
お菓子をねだり大好きなチョコレートを渡されて、何故あんなに落ち込む必要があるのだろう。
「…あらあら」
ちょうどその一連の場面に、お茶を淹れて戻って来た所で遭遇したリナリーは困ったわねと言わんばかりに苦笑する。
そこで神田が疑問を込めた視線で妻を見やれば、
「ああ、あの子ね」
お茶を置きながらリナリーは内緒話をするように耳元で囁いた。
「多分、ハロウィンにカッコつけてあなたに構ってもらいたかっただけなのよ」
お菓子よりも『イタズラ』が目的だったのだと言われて、彼は瞬く他なかった。
trick or treat!
お菓子よりもパパがいい!
End.
2008.10.26
その後、彼女はリナリーの執り成しで一日中、神田さんのお膝を占領して良い事になり、機嫌を直しましたとさ。
去年、「お菓子をくれない」という理由でずっとひっ付いて居られたのが相当楽しかったらしいです。
両親共にエクソシストで忙しいから、甘えたいんだよ。