D.G-SS
□第164夜/教団壊滅:後日談
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ようやく落ち着いた新天地にて。
新しい科学班ラボの検査室から出てきた二人をコムイが笑って迎える。
「どうかな、二人共。身体の方は?」
コムビタンDだけでなく子供の姿になる薬剤まで浴びてしまっていたラビと神田は、完全な状態に戻るまで他の人員よりも多くの手間を要していた。
「ん〜、今んとこ変な感じはしないさ」
「…ちっ、ひどい目にあったぜ」
ラビは手足を伸ばし、軽く跳び跳ねながら自身の状態を確認し、しかめっ面の神田は検査で梳いていた髪をきっちり結い直しながら毒づく。
「そうかい、大丈夫かい。それはよかった。よかったねぇ…」
うんうんと笑顔で頷いていたコムイが急に俯いたかと思うと、クッと喉の奥で笑いを漏らした。
「まぁ、一応? 例え見た目だけでも子供をイタぶるのって趣味じゃないからねぇ」
ふふふふふふふふ…と、地の底から湧き出るような含み笑いと黒いオーラに魔神が見える。
そう思えた瞬間。コムイはカッと顔を上げ、
「コムリン、全シリ〜ズ! 復刻版!!」
片手を掲げて高らかに宣言。
ちなみに額にはどこから取り出したのか、「リナリー愛」とのハチマキが踊る。
途端に、轟音、轟音、砂埃。
硝煙立ち込める中、姿を現したのはコムリン・リターンズ(複数)!!
完全に世界崩壊を企む悪の科学者状態(本人から言わせれば、可愛いリナリーを守る愛の使者、とのこと)でコムイは高笑いをしながらロボットたちをけしかけた。
「GO−!!!!」
「!?」
「ちょっ! オレも居んだけど!!」
指さされた神田とラビはとりあえず、コムリンズの攻撃から飛びずさる。
悲鳴を上げる一般研究員やリーバー班長の怒号も何のそので、新しいラボを破壊しながら暴れまくるコムリンズを背後に、二人は廊下を駆けだした。
「たく、コムイは〜。何かするとは予測してたけどいきなりダイレクトに来るとは思わなかったさ!」
検査ということで武器らしい武器は持っていない彼らとしては逃げの一手を打つしかない。
全速力で走りながら、愚痴るラビに眉根を寄せる神田。
「何なんだ、あいつ」
とうとうトチ狂いやがったかと神田に言われ、ラビが意外そうに隻眼を瞬かせた。
「え。そりゃあ、アレさね」
誰も教えてやらんかったんか。まぁ、そんな勇気のあるやつはいないだろうな。
…などと内心で自己完結させながら、さらりと、ラビは漏れ聞いていた事情を口にする。
「最後まで生き残ってたリナリーに噛みついちゃったのがユウだからだろ?」
「あぁ!?」
それもコムイの目の前でさと言われて、思わず神田が頓狂な声を上げる。
結局、教団の誰一人として残らずあのウィルスに感染したとは聞いていたが。
…よりによって。
そういえばと神田は今更ながらに引っかかっていた事例を思い出す。
すれ違ったアレンに、憐れむようなそれでいて面白がるような妙な視線を向けられたのも。
廊下で、通りすがりのバク支部長に何か今まで以上の敵愾心を燃やされたのも。
それでか、と漸く得心はいったものの、だからといって決して納得できる話ではない。
「コムイにとっちゃ、二重三重に許せないんじゃないの?」
大事な大事なリナリーがユウにパクリさ〜と歌うように言われて、神田は眦をつり上げる。
「っざけんな! 知るかそんなもん!!」
「仕方ないさ。事実だもん」
「うるせぇ、記憶の無いことまで責任とれるか!」
「じゃあ、聞くけどさ。リナリーが他の男に噛みつかれてた方がよかったって言うん?」
ちらりと、翡翠の視線に一瞥されて。神田は虚を突かれたように黙り込む。
恐らく考えもしなかったのだろうけれど。
いつも通りの冷淡な台詞が返ってこない、その沈黙が明確に彼の答えを表わしていた。
まったくユウは。そーゆー肝心なとこが迂闊さ。
胸中で肩を竦めて笑って、ラビは全力で走る勢いのまま、サッと横道に逸れる。
「まぁ、そんなわけだし。頑張ってさ、ユウ!」
「てめ、逃げんな! クソ兎!!」
「だってオレ、心の底から関係ないさ〜」
遠ざかっていく声に引き返してシメてやろうかと思うものの、逆に近づいてくる気配がそれを許さない。
神田は盛大に舌打ちを漏らして、とりあえず武器庫を目指して走ることにした。
複数の轟音は、容赦なく背後から迫い来る…。
…終わる?
―――
暫く『神田がリナリーに噛みついた!』ネタで皆からからかわれるといいな。
コムイにいさんにイヂメられても大丈夫!
最後はリナリーが慰めてくれると信じています。