D.G-SS

□小さな世界
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「ユーくん」

ひっそりとした教団内の廊下で。

響いた子供っぽい呼び掛けに眉根を寄せながらも振り返る。

「何ですか」

仏頂面の弟子を髭の師匠は手招きで呼び寄せた。

「悪いけど、ちょっときてくれるかい?」







行くように指示されたのは医療施設だった。

入ってきた神田を複数のスタッフと苦笑を浮かべた婦長が出迎える。

ごめんなさいね、という表情の相手に目線だけで返して、彼女が寄り添う寝台の上を見やる。

伏しているのは黒髪を広げた小さな身体。

顔を赤くして浅く早い呼吸を繰り返すリナリーは見るからに苦しそうだった。

昨日から風邪をひいているらしい、という話は聞いていたけれど。これは相当熱が高そうだ。

思わず顔を顰める神田の前で、婦長の手を掴んでいた小さな指がぴくりと動き、少女の睫毛が震える。

ぼんやりとした、視点の定まらない瞳が二人を見上げた。

「ふちょう…、かんだ…?」

たどたどしい呼び声に婦長は微笑って、その手を握り返す。

「なぁに? リナリー」

「…何だよ」

神田が応えると、リナリーの空いている方の手が何かを探すように寝台の上を動く。

「居、る…?」

「ええ、もちろんよ。ここに居るわ」

彼女をあやすように婦長が応え、神田へと懇願するような視線を向ける。

少女の頼りなげな腕と虚ろう瞳が少年を求めて彷徨った。

「か、んだ…」

―居るよ。見りゃ分かるだろ。

応えの代わりに力をこめて指を絡める。

その手は、思った以上に熱かった。

…少女の命が燃えている証。

二人を認めたリナリーは嬉しそうに涙を滲ませて笑って。

ようやく安心したように目を閉じた。






小さな世界




それはまだ、手のひら大の生きる場所




end.


2008.6.7








ファンブック。
コムイ無しな二人きり時代の存在に、超萌えました。
神リナ万歳



Title by 『メランコリック*キャンディ』様

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