dream

□執務室の憂鬱06
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「まずは洋服ですよね、それじゃあ目立ちますよ」

そう目を向けるのは真っ白の軍服
彼の髪によく似合うが、カーニバルの最中では些か浮いている

モグチョコパーカーを羽織った二人は急ぎ足でヴィヴィアンのショップに入ると、密会だ今日の事は内密にしてくれ、とレイヴスが女性店員に耳打ちをして店内を貸しきる

とりあえず着替える物を、とレイヴスが手にしたのはネイビーのスーツだったが、○○○はその手を押える

「カーニバルにスーツなんて不自然ですよ!」

そう言って彼女が手にしたのはモグチョコが描かれたTシャツ

嫌だ、絶対に嫌だ

頑なにTシャツを避けるレイヴスと、カーニバルなんだから!とふざけた洋服を手にとっては戻される攻防を繰り返す○○○

やり取りを笑いを堪えて見守る店員も流石に不憫に思ったのか、真っ白のシャツにベージュのチノパンを手に取り助け舟を出す

こちらに先ほどのモーグリパーカーを合わせれば可愛いと思いますよ、そう店員に促され、レイヴスはフィッティングルームへ向かった

未だにモグチョコ柄のTシャツが諦めきれないのか、自分に合わせて鏡を見、ため息をつく
女性店員はお包みしますか?と声を掛け、○○○は笑顔でプレゼントで!と答えた



着替え終わったレイヴスは軍服を宿泊先のホテルへ送らせ、店を出る

「で?次は何処へ向かうんだ」

目立たない様に大人しくモーグリパーカーを被る彼は年齢よりも幼く見える

「私チョコボに一度触って見たかったんです。さっきは子供が沢山いたけど夜なら人も減ってるかな…」

そう言ってカーニバルマップを手に した
ここからはゴンドラに乗った方が早い。レイヴスは順路を確認すると、○○○の手を取りゴンドラへ向かう

停留所にたどり着くと、レイヴスは先にゴンドラに乗り込むと、お手をどうぞ、とばかりに手を差し出された
流れる様な仕種に周りの女性も、うっとりと熱を向けているのが分かる

王子様だ…、まさに女性が憧れる王子様がここに居る…。○○○はレイヴスの手を取るとお姫様さながらにゴンドラへ乗り込んだ

「あんな事しなくても良いんですよ…まるで彼女みたいに…無駄に注目されちゃうじゃないですか」

「今日一日、彼氏代理なんだろう?女性をエスコートするのは男の役目だと母から教わったからな」

レイヴスの品のある動作は母親譲りなのか、通りで一朝一夕で身に付くものでも無いはずだ
とても素敵なお母様だったんですね、そう微笑む彼女が一瞬自分の妹に重なって見えた

妹ルナフレーナも神凪の宿命さえ無ければ彼女の様に普通の女性として生き、ノクティスと幸せな生活が送れたのだろう
ぼやける視界に目頭が熱くなる。グッと目に力を入れて堪えると大きく息を吐く

オルティシエの夜景を眺める○○○はレイヴスの涙には気が付かなかった




ゴンドラから降りる時も同様に手を引かれてエスコートされ、そのまま手を繋いでチョコボの元へ向かう

「見てください!餌やりですって!」

そう指差した先にはキョロキョロと辺りを見渡すモフモフのチョコボ、ノーマルカラーの他に白やピンクといったカラーリングが並んでいた

「この子若い女の子が大好きだからね〜、お姉ちゃんはチョコボに惚れられちゃうかも知れねぇな!」

そう言って笑うおじさん

チョコボとは目の前で見ると思った以上に大きい…
クエッ!!という大きな鳴き声に怯み一歩下がるも、真後ろにいたレイヴスにぶつかって逃げ場を失う
ニヤリと笑うレイヴスは怯む○○○に意地悪い笑みを浮かべた

「どうした”念願の”チョコボだろ?」

「わ、分かってます、よ!か、可愛いな〜って思ってたんです!」

恐る恐るというようにゆっくりと手を伸ばすと、チョコボは○○○の胸に飛び込んできた
予想以上の衝撃にたたらを踏み、後ろのレイヴスごと甘えるようにグリグリと顔を摺り寄せる

「わ、わぁ・・・!ふふっ、ふかふか!」

一度触ってしまえば怖くないらしい○○○は思いっきり顔を埋めて羽毛を堪能する
後ろでされるがままのレイヴスに気付くと、彼の手を取りチョコボに触れさせる
アニマルセラピーですよ、そう言って無邪気に笑う彼女にレイヴスは初めて自分が気遣われていた事に気付いた


それからチョコボを満足するまで撫でまわした○○○達は次の目的地へ向かおうとチョコボに背を向ける

が。チョコボパーカーを咥えて離さないチョコボにもっと構え、と催促され続けた


「はぁ〜、チョコボ可愛かったですね〜もうふっかふかで家に連れて帰りたいです」

恍惚の表情を浮かべる彼女はすっかりチョコボの虜になった様だ

「あんなデカイのがいたら部屋がチョコボで埋まるんじゃないか?」

「そんなに狭くないですよ!だってふかふかのチョコボベッドですよ!憧れちゃいます」

手で掻き抱くような仕草をし、もふもふ最高〜と顔を緩ませる



しばらく進みそういえば、と歩みを止める○○○にレイヴスの足も止まる

「モーグリ兄弟のぬいぐるみ、あと1体見つからないんですよ…」

○○○から差し出されたスマホを覗き込むとそこには色違いのモーグリ人形の写真、これが彼女が言う"モーグリ兄弟"という奴だろう

『高い所から見守っているよ』
ヒントを頼りに○○○は周りをキョロキョロと見渡すがモーグリ人形は見つからない
諦めて次へ向かおう、そう切り出そうとした時レイヴスは声をあげた

「あ…、あれじゃないのか?」

ほら、と指さされた先を見る。だが○○○には煌びやかに飾られた外灯しか見えない

「どこ?」

背伸びをするも、見えない。レイヴスはグッと肩を抱くと 距離を詰めて指先を合わせる。だが見えない

レイヴスは仕方ないと、未だ見つけられない○○○を抱き上げて片腕で支えた。急に高くなる視線と不安定な体勢に小さく声を上げてレイヴスの頭に抱きつく

「ほら、そのまま真っすぐだ」

「あっ、ありました!緑のモーグリ!」

「写真は良いのか?」

「あっ、まって!撮ります!はいチーズ!」

逃げるはずもないモーグリ人形に声をかけて写真を撮る。やっと兄弟全員を写真に収められた事に○○○は満面の笑みでレイヴスの頭を撫でた

「まさか目線のせいで見つけられないなんて思わなかったです、ありがとうございます」

えらいえらい、と頭を撫でる○○○、周りのカップルもクスクスと笑いを零して微笑ましい二人は注目を集めていた

イベント会場でモーグリ兄弟の写真を見せた○○○はたんまりとモグコインを手にして満足気だ




「次はスクエニカフェだったか?」

「カーニバル限定のデザートがあるそうです、楽しみにしてたんですよ〜」

女性は甘い物が好きだな、レイヴスは何時ぞやか妹に渡されたタルトを思い出す


「チーズケーキとキッシュタルトかぁ、」

カフェに着くと注文もせずメニューを前にうんうんと頭を悩ませている

「何を悩んでいる」

「だって甘い物も食べたいし、キッシュも美味しそうなんですもん…、でも流石に2個は…」

と言い淀む○○○に、レイヴスは迷う事なく料理を2種類、自分用にマティーニを頼む

「ドリンクはどうする?」

「わ、私も同じ物で」

突然問われ咄嗟に同じ物を頼んだが、元よりアルコールにはさほど強くない
○○○の頭には一抹の不安が過ぎったがテーブルに付いたと同時に出されるケーキに不安は一瞬でかき消された


「モーグリ可愛い!!」

そう言って更に盛り付けられたモーグリの砂糖菓子とそれを囲うハートのソースに○○○のテンションも急上昇する

至極幸せそうにケーキを頬張る○○○の前に、一口サイズに切り分けられたキッシュが差し出された
もちろん差し出した人物は彼しかいない


「?、どうしたんですか?」

「どうしたって、お前が食べたいと言うから頼んだんだろう」

「そうですけど、お会計をしてくれたのはレイヴスさんですし…」

「俺は甘味は得意ではない、こちらなら半分食べてやる。要らないならいいんだぞ」

お前にはもう一口もやらん。そう言って差し出したフォークを自分の口へ運ぼうとする

「た、たべます!食べたいです!」

慌てる○○○に笑みを浮かべ、レイヴスはフォークを差し出した

ぱくり、控えめにキッシュを口にするも、卵とバター、野菜の味が程よく口の中に広がる。うん、これも美味しい。うっとりキッシュを堪能する○○○と微笑みながらその彼女を見つめるレイヴス



傍から見ていたディーノは、なんだあのバカップル・・・、と本音を零した




料理に舌鼓を打つうちに、レイヴスに勧められて2杯3杯とカクテルは追加されていった
5杯を超えた頃には○○○の顔は赤らみ、視線はふわふわと中を彷徨った。酔った彼女は饒舌になるようだ


「私、レイヴスさんってもっと嫌味な人だと思ってました。だってノクティス様の事睨むし、ルナフレーナ様との恋仲を邪魔する悪いひとなんだ〜!って思ってたんですよぉ…それなのに今日はとっても楽しかったし、ご飯も美味しいし、レイヴスさんの事きらいになれないな〜って思っちゃいました」


随分と悪い印象を持たれていた様だが、ノクティスを睨んだのも、ルーナとの仲を良く思ってはいない事も事実だ

今はまだ頼りない世間知らずの王子が、妹に相応しい王となるその時まで、兄である自分は素直に受け入れる事はないだろう


「でもレイヴスさんには幸せになってほしいです、ルナフレーナさまも、ノクティスさまも、みんな、みーーんな幸せになってほしいです…帝国なんて嫌です、戦争はもっと嫌です…」

嫌だ嫌だと駄々を捏ねる様に呟く彼女もきっと何かを奪われた被害者なのだろう
彼女の手を取るとアルコールによって高まった体温が心地よかった


「人の温もりを感じたのは久し振りだな」

「そうなんですか?でも私よりもチョコボの方がもっとぽかぽかです」

レイヴスの手を握り返すと自分の頬に当てる、自分より幾分低い体温の手はひんやりとしている

目をつぶってレイヴスの温度を堪能するうちに、ゆるゆると睡魔が襲ってくる







レイヴスはパーカーを脱ぐと人目に付く事も構わず、目を瞑ったまま小さく寝息を立て始めた○○○を抱きかかえる
ゴンドラを乗り継ぎリウエイホテルに戻ると、ロイヤルスイートを手配し○○○をベッドへと運んだ






魔法はとけた


彼女との楽しい時間は夢に消え、自分はニフルハイム帝国の軍人へ戻る

○○○の額に軽く口付けると、髪を一撫でして部屋を出た



次に逢うときはきっと彼女を悲しませるだろう。それでも、自分が選ぶ道はこれ以外に無い

少しでも出逢うタイミングが違えば別の未来があったのかもしれない
レイヴスが自分の為に生きる未来、彼が望む事の出来なかった未来が・・・




レイヴスは同じくリウエイホテルの別室に戻るとヴィヴィアンから届けられた軍服に袖を通す

ふと目線を落とすと、可愛らしくラッピングされた袋が一つ。袋を開けると攻防の末、棚に戻されたはずのTシャツが入っていた
メッセージカードには丁寧な文字で、『今日の記念に』と書かれていた

記念がこれか・・・、Tシャツの中で笑うモグチョコにレイヴスは一人苦い笑みを向けた









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モーグリの格好したレイヴス…


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