dream

□執務室の憂鬱06
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今日は待ちに待ったモグチョコカーニバル初日、水の都オルティシエ一世一代のお祭りである

伝説の生き物モーグリと、皆から愛される騎獣チョコボをキャラクターモチーフにしたこのイベントは、チョコボレースや仮装大会をはじめ、オルティシエ全体を使ったフォトラリーなど様々な催しがあり大人から子供まで楽しめる
夜になれば連日花火が打ち上げられカップル向けのムーディーな世界に早変わりするのも人気の一つである


王都インソムニアもカーニバルに合わせて今日は祝日とされており、街行く人々の足取りは軽い









これはとある王族専属の庶務室には何の関係もないカーニバルの一日













06. カーニバル













例に漏れず、休日を貰った○○○は一人オルティシエに降り立った
流石にカーニバル初日は人で溢れ街全体に活気がある

○○○もモグチョコカーニバルに友人を誘おうと声を掛けるも、皆パートナーとの先約があり、誰を誘うでもなく当日を迎えてしまったのだ




せっかくだからのんびり観光でもしようと、船で貰った観光マップに目を落とした
○○○はオルティシエ名物ラムレーズンのジェラートを購入する
1つの買い物でくじが1回、大当りはあのリウエイホテルのロイヤルスイートルーム1日宿泊券である

勿論そう簡単に1等を引き当てられるはずもなく、○○○が引き当てたのは『4等カップルラブラブウェア(モーグリ&チョコボ)』
大人一人をすっぽり覆う大きさの、フード付きパーカーであった

彼氏と一緒に使ってね!とニコニコしたおじさんに手渡され、まさか一人で観光です、とは言い出せず苦笑いで受け取った
カップルウェアかぁ、とりあえずチョコボを取り出して羽織るとなかなかに暖かい
周りも皆思い思いに仮装をしていたので○○○も溶け込んで見えた


暫く散策し、顔抜きのパネルで写真を撮り、撮影イベントであるモーグリ兄弟を探して歩いていたが、ふと気づくと裏路地に迷い込んでしまった様だ

しかも先は行き止まり、○○○は人気の無さと、酔っ払って大声で談笑する男の声にふるりと震えた
思い出してはいけない、ギュッと手を握ると大通りへの道を急ぐ




曲がり角に差し掛かった所で真っ白な何かにぶつかった

「、キャっ…」

倒れるより早く二の腕を掴まれた。ビクッと身を固くして見上げると、目に入ったのは夕暮れの空に映える銀髪
夕陽が反射して金にも見えるその髪はキラキラと輝いて映る


「失礼、急いでいて…っ、お前は…」

そう言って言葉を途切れさせた銀髪の青年は、次の言葉を発する前に後ろから聞こえた声に表情を強張らせた

「…様!レイヴス様、どちらに居られますか!レイヴス様!」

ガシャガシャ と甲冑が擦れる金属音を鳴らして数名が近づいてくる
レイヴスと呼ばれた男は○○○の後ろへと視線を向けた。しかしその先は行き止まり、レイヴスが見つかるのは時間の問題だった


咄嗟に手提げから袋を取り出して真っ白のパーカーを引っ張り出すと、レイヴスに被せる

グイ、とフードを引き被せると頭に付いたモーグリのポンポンが楽しげに揺れた

自分もチョコボの嘴がついたフードを被り背伸びをするとレイヴスの顔と服装はすっぽりと隠れた


○○○はそのままレイヴスの胸に手を置き寄りかかると、あたかも人目を忍んで逢瀬を楽しむカップルの様に見える


何故彼を隠しているのか、何故自分まで隠れているのか
息がかかりそうな程近い距離で、心臓の音が聞こえてしまうのではないか、というほど鼓動は脈打っていた


間近にあるアイスグレーの瞳は数回瞬きをした後、○○○の腰を軽く抱いて顔を寄せた

えっ、ま、待って待って!、声には出さずに胸を押し返すが、男の力に適うはずもなく、軽く唇を重ねられた、触れるだけの優しい口付け

所謂バードキスと呼ばれるソレを数回繰り返され、バクバクと早鐘を打つ鼓動はパンク寸前だった
軽く顔を離したレイヴスは、監視役の兵士が居なくなった事を確認して腕の力を緩めた


「ひ、ひどいです…せっかく庇ってあげたのに、その、き、キスするなんて…」

最期は涙声になる○○○に、女性に迫られて手を出さない男は居ないだろう、モーグリのフードを外しながら平然と答えた

距離を取って改めて顔を見る、今まで抱き合い、唇を奪われ、目の前であっけらかんと言い放った男こそレイヴス・ノックス・フルーレ。ノクティスの想い人ルナフレーナの実の兄である。

容姿端麗、才色兼備、女性からも引く手あまたであろう男性はこうも簡単に女性に手を出せるのか…、若干のショックを覚えてつつ○○○は尋ねた

「どうして貴方が此処にいるんですか?」

「オルティシエは中立だ、ニフルハイムに敵意無しと証明する為、軍人として街の警備に駆り出されただけだ」

「じゃあ警備をサボる為に逃げていたんですか?」

「俺は帝国に信用が無い、アイツ等は部下という名目の監視役だ」

そう言って目線を下げるレイヴスはどこか疲弊して見えた




テネブラエ王国がニフルハイムに簒奪されてから、彼はニフルハイム帝国の軍人として所属していると何かの文献で目にした

帝国の襲撃に遭い、目の前で両親を殺されたレイヴスは当然、ルシスを、そしてレギス国王を恨んでいるのだろう

彼の目に滲む押し殺した怒り、○○○はそれを目にして身震いした
恨まないでとは言えない、過去は変わらない、彼の心を癒す術も持たない、それでも…
自分の父と思える人を呪って欲しくないし、恨みだけを抱えた悲しい日々を彼には送って欲しくないと純粋に思った

力も権力もない自分が彼に出来る事…

レイヴスの目を見てじっと思案する○○○は突然口を開いた


「デートしてください」

頬を膨らませて○○○は突拍子もない事を口にした
予想外の言葉にレイヴスは反応が遅れる

「だって酷いじゃないですか、折角楽しみにしてたのにもう夕方だし、突然キスされるし、モグコインは全然集まってないんですよ!誰のせいですか、誰の!」

そう言ってプリプリと捲し立てる○○○はお怒りの様子

「こうなったら残り一日は彼氏代理としてカーニバルに付き合って頂きます!埋め合わせしてもらわないと割に合わないです!貸しは作りたくないですよね?」

まだジェラートしか食べてないんですよ、そう言ってジト目で見上げてくる女性にレイヴスは表情を崩した

「そうか、通りで甘いと思ったらジェラートか」

一瞬、何のことか分からなかった○○○だったが、口付けられた時の感想だと気付いて顔を真っ赤にする

「そ、そう言う事は言わなくて良いんです!!」

で、どうするんですか、と視線で問う。レイヴスは諦めたようにそっぽを向いて借りは返そう 、と呟いた


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