長編[ルイ]

□第2章
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ミア「エマ?」



エマ「?」



ミア「何を、していたの?」



エマ「・・・これ」



ミア「それ、ピアノよね?」



エマ「ん」



鍵盤に指を乗せると、押す



何度かドの音が鳴る



ふいに、エマが椅子に腰掛けた



両手をそっと鍵盤に乗せると、滑らかに指が動き出した



ミア「わ・・・」



ルイ「?」



ムラサメ「これって・・・」



ヤクモ「ピアノ、か?」



離れた所にいた全員も、その音の発生源に目と耳を向ける



一曲、区切りを付けると小さく息を吐き出し、エマはミアを見つめる



ミア「すごい・・・なんか意外・・・」



エマ「ほっといて」



ぐいっ



ミア「え?え、えぇ?」



椅子から立ち上がったエマに手を掴まれ、引っ張られるままソファに向かう



ぼすっ



ミア「・・・・・・何これ?」



エマ「・・・思った通り・・・落ち着く」



ソファに腰掛けたエマに、後ろから抱き締められるような形でミアは座らされた



エマの膝の上に、だ



ミア「なんでこうなるの?」



エマ「落ち着くから」



ミア「私は落ち着かないんだけど!」



エマ「いいじゃない、その方が」



ミア「?」



エマ「あ。これ、あげる」



ミア「コンペイトウ?」



エマ「甘い物はいい。甘い物があるから、脳は生きていける。糖分摂取はするべし、程々に」



ミア「言ってる事がよくわからないのだけど・・・」



エマ「糖分摂取をし過ぎると、その人は甘くなるから。色々と」



ミア「いや、私が言いたいのはそこじゃなくて」



エマ「いいから。あげる」



ミア「・・・あ、ありがとう」



エマ「ん」



ミア「・・・あの、エマ?ひとつ、貴方にお願いがあるの」



エマ「ん?」



ミア「貴方も、銃剣で戦うでしょう?貴方の戦い方を、少し参考にさせて欲しい」



エマ「なぜ?」



ミア「初めて会った時、貴方、わざと外したでしょう?それでも、私の足元を的確に狙って撃った」



エマ「・・・」



ミア「その後の、堕鬼(ロスト)との戦いも・・・速い戦況分析と判断。的確なタイミングでの援護射撃と、前衛での攻撃。遠近の攻撃切り替えタイミング・・・どれもこれも、見ていてすごいと思った。とても真似できないって。でも、もっと強くなりたいの。せめて追い付きたい。だから・・・お願い」



エマ「・・・・・・私は、自分の名前以外、何も覚えていないの」



ミア「え?」



エマ「戦い方も、さっきのピアノも。体の記憶に頼ってるだけ。だから、教える事は難しい。見せる事しかできない・・・それでも、構わない?」



ミア「ええ、お願い!」



エマ「ん・・・」



ぽすっ



ミア「?」



すー・・・すー・・・



ミア「え?あの、ちょっと?エマ?」



すー・・・すー・・・



ミア「寝てる・・・?」



ヤクモ「ハハッ、なかなか、面白い光景だな」



ミア「笑ってないで、助けて欲しいのだけど?」



後ろから、ミアの肩に額を乗せたエマは、完全に寝入っていた



ミア以外にとっては、どこででも眠ってしまう彼女のこれは、すでに見慣れた光景である



ヤクモ「ま、いいんじゃねぇの?甘えてんだろうからな」



ミア「え?」



ヤクモ「ココやムラサメ相手に、そういうのができるとも思えないしな。かと言って、俺やルイ相手でもな。イオも・・・なんか違う気がするしな」



ミア「何それ・・・」



ルイ「そうしていると、まるで妹に甘える姉だな」



ミア「妹に甘える、姉?」



ヤクモ「それにしても、本当に不器用だな。金平糖だって、疲れた時は甘い物がいいって聞いたから渡したんだろうが・・・もっとわかり易い気遣いをしてやれってんだ」



ミア「え・・・」



ルイ「エマは言葉足らずな事が多いし、かなり不器用だが・・・他人を想い遣れる奴だ。そこは信じてやって欲しい」



ミア「・・・」



私を、気遣ってくれた・・・?



それがなんだか、妙に嬉しくて



まあいっか・・・もう少し、このままでも



そう思えてしまったミアは、エマの静かな寝息を聞きながら苦笑した



ヤクモ「けどまあ、やっぱ意外だよな?」



ルイ「ああ。ピアノが弾けるなんて、一言も言ってなかったからな」



ヤクモ「あの曲、なんだっけか?結構主流なやつだったと思うんだが・・・」



ミア「G線上のアリアでしょう?私も知ってる」



ヤクモ「ああ、それだ!」



ルイ「・・・・・・ますますわからなくなってきたな」



ミア「・・・記憶のほとんどがないって、本当なの?」



ルイ「ああ、そうらしい。だが、ある程度は体が覚えているらしくてな。自然と動けるようだ」



ミア「そう・・・」



ルイ「・・・・・・なぜエマが、記憶のほとんどを失ったのかはわからない。だが、もし彼女の血英がどこかに存在していて、それを回収する事ができれば・・・あるいは」



ヤクモ「かなり確率は低いがな。でも可能性が無いわけでもない」



ミア「・・・私もそれ、手伝うわ」



ルイ「そうか・・・起きたら、本人にも伝えてやるといい。きっと喜ぶ」



ミア「ええ」
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