長編[ルイ]

□第1章
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エマ「・・・・・・高っ」



手を離した後、自分も上を見上げるエマ



エマ「ハァ・・・」



ため息を吐いた後、キョロキョロと辺りを見回す



オリバー「どうしたの?」



問い掛けるオリバーだが、エマからの返答はない



すると彼女は、その場に落ちていた鉄パイプを手に取った



オリバー「えぇっと?」



エマ「武器、ないから」



オリバー「あ、なるほど。え、ない?それって大丈夫なの?」



エマ「これでもいい、丸腰よりは」



オリバー「まあ、そうだけどさ・・・」



エマ「それよりも、問題はこの先」



言ってから見据える通路の先は、酷く暗い



おまけにすぐ曲がり角になっているせいで、先に何が待ち構えているかわからない



エマ「・・・・・・」



オリバー「あ、ちょっと!」



鉄パイプを片手に歩き出すエマ



その後ろに、オリバーが続く



壁に姿を隠し、顔だけを出して様子を伺う



曲がり角に当たる度、彼女はそうして周囲を警戒しながら進む



エマ「取って来い、とか言ってたくせに・・・帰り道を用意しないって馬鹿なの?」



オリバー「さ、さあ?」



エマ「そもそも、そんなに血涙が不足してるなら自分達で探せばいいのに。偉そうにして他人に取りに行かせるなんて・・・よっぽど臆病者なんでしょうね。人を足蹴にするなんて、最低。梯子の下ろし方も知らないような馬鹿に顎で使われるなんて、正直ものすごく嫌だし。そういう奴はものすごく嫌い」



オリバー「・・・」



エマ「血涙を見つけても、帰り道が無ければ持ち帰る事すらできないのに・・・そこまで頭が回らない馬鹿なのかしらね」



オリバー「・・・・・・あ、あのさ?」



エマ「なに?」



オリバー「表情変えないまま堕鬼(ロスト)倒しながら愚痴るのやめてあげなよ。なんか、見てて同情する・・・」



エマ「?」



小首を傾げるエマに対して、オリバーはため息を吐いた



先程から彼女は愚痴をこぼしながら、襲い掛かってくる堕鬼を倒していたのだ



堕鬼(ロスト)−−それは、吸血鬼(レヴナント)達の成れの果て



そう言っても過言ではない



死んだ人間を吸血鬼として蘇らせた



心臓を潰されない限り、彼らは死なない



だが実際は、そんなに都合の良い事ばかりではない



御伽話に登場するような吸血鬼とは違い、日光や十字架、ニンニクに弱いといった事はない



しかしひとつだけ、渇く事が欠点と言える



人の血を欲する体になってしまった彼ら



だがその渇きを癒せず、耐えられなかった者達−−それが堕鬼(ロスト)



今となっては、辺りに充満する瘴気も堕鬼に堕ちてしまう原因となっている



そしてここ、地下道にも堕鬼達は巣食っている



奴らは心臓を潰しても、また時間を掛けて蘇ってくる



終わりなき化け物だ



と、一般的には恐ろしい存在として知られている堕鬼を、エマは平然と倒していた



しかも、愚痴を言いながら・・・



オリバー「・・・ていうか、ちょっと意外だよ」



エマ「?」



オリバー「あんまり喋らない、クールな人かと思ってたから」



エマ「・・・・・・そう、なの?」



オリバー「いや、俺に聞かれても」



段々と奥へ進んで行く2人



その途中、エマの足が止まった



オリバー「どうしたの?」



エマ「これ・・・」



オリバー「それは、銃剣だね。まだ使えそうだ・・・鉄パイプよりはマシになるんじゃないかな」



苦笑して言うオリバーの言葉は、正直、耳に入っていなかった



なぜだか、それを初めて持った気がしなかった



むしろしっくりくる



エマ「・・・」



何も言わないまま、鉄パイプからその銃剣へと装備を換えた



手に馴染む・・・まるで、前からそれを使っていたかのような、そんな感触だ



更に奥へと向かいながら、銃剣を使って堕鬼を倒す



初めて持つとは思えない使いこなしに、オリバーも感心する



と、その途中だった



オリバー「あれ、さっきの人じゃないか?」



道で苦しそうに倒れていたのは、確かに先程、自分達より先にここへ送り込まれた内の片方だ



エマ「・・・」



オリバー「どうした?どこかケガでも・・・!」



エマ「ッ!離れて!」



オリバー「え?」



振り返ったその人は、堕鬼に堕ちていた



オリバーへと襲い掛かり、彼はなんとか避けた



だが第二撃が迫る



エマ「ちっ」



パンッ



銃剣から放たれた1発が、堕鬼に命中した



消滅していく堕鬼を見つめた後、エマはオリバーに駆け寄る



エマ「大丈夫?」



オリバー「ハハッ・・・ついてないな・・・」



エマ「マスクが・・・」



避けたように思えたあの攻撃は、彼のマスクに掠めていたらしい



オリバー「少し、休んでから行くよ・・・」



エマ「でも・・・」



オリバー「ハハッ、大丈夫だって。いいから、ほら。君は、血涙を、探さないと・・・あの子が、待ってるから・・・」



エマ「・・・・・・わかった。先に行く。先に行くから、追い付いて来て」



オリバー「え・・・?」



エマ「来なかったら罰として・・・半殺しにするために、戻って来るから」



そう言い残すと、振り返る事なく進んで行くエマ



彼女の背中を見送りながら、オリバーは苦笑した



オリバー「ハハッ・・・素直に、迎えに行くからって、言って欲しいな・・・そこは」
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