長編[ルイ]

□第1章
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クルス「さあ・・・目を覚まして。世界を・・・救って」






そんな、優しい声が聞こえた気がした−−




















目が覚めると、目の前には少女の顔があった



少女「・・・おかえりなさい。気分は、どうですか?」



見覚えはない



というより、何も覚えていない



そう言うのが正しいだろう



わかるのは、“エマ”という自分の名前だけ・・・



横になっていた体を起こそうとすると、少女が手を貸してくれた



辺りを見回しても、その景色に見覚えはない



ここはどこなのか、自分はなぜここにいるのか・・・



何も、わからなかった・・・



少女「私も、覚えていないのです」



呆然としていると、少女はそう言った



少女「あちらです」



そう言った少女に導かれるまま、エマは重い足取りで進む



渇いている・・・そう思った



辿り着いたのは、何もない白い木



少女「どこもみな、渇いている。泉に実る血の涙が、渇きを癒す・・・そう聞いていましたのに」



エマ「え・・・?」



少女「こちらへ・・・」



白い木に更に近付くが、その時突然、無性な渇きに襲われる



少女「大丈夫。大丈夫・・・」



苦しみの中、何かの映像が頭の中でフラッシュバックする



少女はエマの左手を取ると噛み、血が滴り落ちる



すると白い木が、急に息を吹き返したように成長し、「血涙」を実らせた



それを見て、少女は



少女「やはり・・・貴方は・・・」



と、何かを知っているような口振りで呟いた



だが、今のエマには、それを気にするような余裕はない



「血涙」のひとつを手に取ると、少女はそれをエマに差し出す



少女「さあ、どうぞ、これを・・・」



渇きが癒え、落ち着いたエマ



少女の膝を借りて、眠ってしまう



その時、背後から足音がふたつ・・・



「新たな泉と労働力、どちらも確保だ。ハハッ、今日はツイてるぜ」



「立て。楽しいお仕事の時間だ」



銃剣の切っ先を突き付けられるが、少女は首を傾げるだけだった










「立て!もうすぐ血涙の実を探しに行くぞ。早く準備をしろ!」



エマ「ん・・・」



そんな荒っぽい声で、エマは目を覚ました



「お目覚めかい?」



エマ「え・・・?」



「おっと、静かにな。お連れさん、さっき眠ったところだ」



エマ「連れ・・・」



そう言われて、最初はピンと来なかった



だが先程まで側にいた少女の事を思い出し、後ろを振り返った



あの白い少女が、柱にもたれ掛かって眠っていた



「3番、4番、それと新入り!仕事の時間だ!装備を確認して上がってこい!」



エマ「・・・」



嫌な予感しか、しなかった



「ここも枯れたか・・・・・・瘴気が濃くなっているな。クソッ、次の徴収まで、時間がないってのに・・・」



「準備、完了しました」



「ああ、すぐ行く」



リーダーらしき男が、こちらに近付いてくる



「フン・・・枯れているのは、こいつらも同じか」



「そ、そうです、枯れてますから・・・こんな瘴気の中での探索は無茶です、今日は・・・」



そう言った男が、銃剣を持った男に殴られた



それを見た瞬間、エマの眉間にシワが寄る



「コレが何か、わかるな?」



「血涙・・・だろ?」



「そう、この血涙を今から探してきてもらう。この先の地下道でな。血税の徴収日まで、あと少し・・・だが、今の俺達に、余分な血涙なんてない。このままじゃ、血も涙もねぇシルヴァの犬共に、身包み全部はがされちまう・・・まあ、そういうわけだ」



「なんで僕達が、そんな事・・・」



「文句があるなら、血税なんてクソみたいな制度を作った、シルヴァ様に直談判でもするんだな」



「まずはお前らだ。さっさと動け!」



割って入ろうと静かに前へ出るエマを、側にいた別の男が手で制した



「駄目だ。みんなを巻き込んでしまう・・・今は、従うしかないよ」



「次!」



そう言われて、彼を含めた少女とエマの3人が歩き出すが



「おっと。お前は、俺達と留守番だ」



肩を掴まれて止められたのは、少女だった



エマ「ッ・・・」



「戻ったら、返してやる。回収した血涙と交換にな」



エマ「ちっ」



「最近は、ここらにも“吸血鬼狩り(ハンター)”が出るそうだ。全滅だけは、勘弁してくれよ」



「さっさとぉ・・・行けぇ!」



途切れている道の途中で足を止めると、2人は背後から蹴り落とされた



「いってぇー・・・おい、大丈夫か?」



エマ「・・・平気。あなたが下敷きになってるから」



「そりゃあ良かった・・・できれば、早めに退いてもらえるとありがたい」



エマ「・・・」



無言のままエマが退くと、彼は上を見上げる



「ここから上に戻るのは無理か・・・帰りは、別の道を探さないとな」



エマ「・・・みたいね」



オリバー「あ、俺オリバー・コリンズっていうんだ・・・よろしくな!」



エマ「・・・エマ。よろしく」



静かな口調で答えたエマは、差し出された彼・オリバーの手を取って握手する
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