長編[ソーマ]
□2071年、始動
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実技訓練、休憩を挟んで座学を終え、解散
ノートを閉じたシオンは、息を吐き出しながら背もたれに体を預けた
コウタ「なぁ」
シオン「?」
コウタ「さっきはフォロー、サンキュな。助かった」
シオン「え?・・・あ、うん」
コウタ「どした?困った顔して?オレ、変なこと言ったか?」
シオン「あ、ごめんなさい。藤木くんが悪いわけじゃなくて、その・・・お礼を言われた時、どんな顔をして何を言えばいいのか・・・思い出せなくて」
コウタ「え?思い出せないって・・・」
数年間、他人とまともなコミュニケーションが取れなかったシオン
どんな時にどんな反応を、どんな言葉を返すのがいいのか・・・ぼんやりとしか記憶にはなかった
記憶障害があるという設定は、こういう所でも役立つかもしれない
そう思った
シオン「・・・・・・内部居住区に住んでたらしいけど、親と喧嘩して、家を飛び出して・・・壁外にまで出た私を連れ戻そうとした両親は、アラガミに・・・私も襲われたらしいけど、第一部隊の人達に助けられたらしい、です。でも私、ぼんやりとしか覚えてなくて・・・アラガミに襲われたショックだろうって、言われましたけど」
コウタ「ごめん!オレ、その・・・!」
シオン「あ、そんなに気にしないでください。覚えてる事もありますし、忘れているからこそ・・・そんなに辛い気持ちに、ならないんだと思いますから」
慌てて謝るコウタに気を遣わせまいと言うシオンだが、その雰囲気は暗かった
そう見えたコウタは、どうしたものかと悩み始める
コウタ「・・・・・・あ。な、なぁ!内部居住区にいたって事はさ、学校とか行ってた?」
シオン「え?あ、はい」
コウタ「学校ってどんなだったか、覚えてる?」
シオン「・・・今の座学と、ほとんど変わらないです。1時間くらい座って、教師の話を聞いて、ノートを書いて、問題を解いたりもして。15分くらいの休憩を挟んで、またその繰り返し。たまに体を動かす授業もあって」
コウタ「たまって事は、ほとんど座りっぱなし?」
シオン「はい」
コウタ「うわ、オレ無理!体動かすのがいい!」
シオン「あ、でも居眠りしてる子もいましたね。誰かにノート借りて、写したりして」
コウタ「・・・・・・シオン、ノート見して」
シオン「藤木くんも居眠りしてましたもんね。でも、自分がわかるようにしかまとめてないので、あまり綺麗ではないですよ」
言いながら渡されたノートのページを、コウタはパラパラとめくっていく
コウタ「・・・いやいや!めっちゃ綺麗じゃん!?すげぇ!オレでもわかる!ちょっと借りていい!?」
シオン「ど、どうぞ・・・」
コウタ「サンキュー!」
嬉しそうにノートを広げ、それを写し始めるコウタ
キョトンとした顔でそれを見つめていると、ふと顔を上げた彼と目が合う
コウタ「そういやさ。藤木くんなんて堅い呼び方じゃなくてさ、コウタでいいよ。オレもシオンって呼んでるんだしさ」
シオン「え・・・そ、そのうち」
コウタ「なんだよ、オレら同期だろ?それにもう友達だし」
シオン「とも、だち・・・」
コウタ「あれ、違った?友達だと思ってたのオレだけかよぉ!」
シオン「え、あ、その・・・ごめんなさい。友達、いなかったから・・・その・・・本当に、私なんかでいいんですか?」
コウタ「いいに決まってんだろ?ダメなら友達だなんて最初から思わないって!あと敬語もなしな、友達なんだからさ」
シオン「わ、わかり・・・わかっ、た・・・こ、コウタ」
コウタ「おう!」
笑顔を見せるコウタに、シオンは思わず俯いてしまう
本当に嬉しそうに、彼が笑うからだ
困ったような顔をして俯いてしまったが、同時に照れたように頬を赤く染めたのを見た
だからこそ、コウタも嬉しくなったのだ
迷惑というわけではなさそうだからだ
友達がいなかったから、と言った彼女
その理由を知りたいとは思ったが、自分が彼女の友人第一号になれたのが嬉しい気持ちの方が勝った
また、機会があれば聞けばいい
そう考えたコウタは、この場で聞く事をやめてしまった
以降、訓練の日々が続いた
そして・・・
ツバキ「本日にて、基礎訓練は終了だ。来栖シオン、藤木コウタ。以上2名を、現時刻を以て第一部隊に配属する。以後は部隊長の指示に従って行動しろ」
シオン・コウタ「はい!」
ツバキ「早速だが、来栖シオン。この後、部隊長との任務が発行されている。エントランスで待機していろ」
シオン「は、はい」
コウタ「頑張れよシオン!」
シオン「あ、うん」
解散後、椅子に座ってぼうっとしていた
ヒバリ「あ、リンドウさん。支部長が見かけたら、顔を見せに来いと言っていましたよ?」
リンドウ「オーケー。見かけなかったことにしといてくれ」
そう言いながら軽く片手を上げると、彼はこちらに歩み寄って来た
シオン「あ」
リンドウ「お?新入りってやっぱお嬢ちゃんだったか。資料見た時に、もしかしたらとは思ったが」
シオン「は、はい。よろしくお願いします」
リンドウ「おう。んじゃ、改めてだ。俺は雨宮リンドウ。形式上、お前の上官にあたる・・・が、まあめんどくさい話は省略する。とりあえず、とっとと背中を預けられるぐらいに育ってくれ。な?」
シオン「は、はぁ・・・」