長編[ルイ]

□第4章
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ニコラのいる雪山



下へと続く道を進み、洞窟を抜ける



目の前には、廃墟と砂漠が混在しているかのような風景が広がった



ジャック「見ろ。ただの廃墟だったところに、忽然と砂漠が現れた・・・」



一足先に到着していたジャックは、気配を感じ取ったのだろう



追い付いてきたエマ達を振り返り、語り出す



ジャック「神骸に侵され、薄れていく意識の中・・・決死の思いで、ここに棺を作ったんだろう。干上がった塩湖が砂漠となり、僅かに残った沼地の風は、強烈な塩を吹き付ける・・・エヴァが生まれたのは、不毛の地だ。どちらかが血の渇きを迎えたなら・・・残った方が、人としての最後を与えようと誓った。エヴァは・・・あの先で待っているのだろう・・・」



エマ「・・・」



ジャック「・・・語り過ぎたな・・・・・・先に行く。ここから先は、俺達ふたりの問題だ」



そう言って進んでいくジャックを、エマが苦しそうな視線で見送る



ルイ「エマ・・・」



エマ「・・・・・・私達も行こう、行かなきゃ」



急かすような口調に、ルイは少し不安になる



だが、理由はわからないでもない



今のジャックとエヴァの状況は、かつてのジャックとエマの状況と似ていた



おそらく彼は、エヴァを・・・



だからこそ止めたいのだろう



もう、繰り返させてはならないと



繰り返さずに済むよう、エマならできるのだから



ジャックのために、と・・・必死なエマに対して、複雑な気持ちになる



エマは、ジャックを赦した



いや、そもそも憎んだり恨んだりといった事すら、彼女の中にはなかった



それを知った瞬間から、ジャックは変わった



相変わらず鋭い眼光を向けてくるが、エマに対してだけは違った



少なくとも、ルイはそう思う



まるで、愛おしむような・・・



ルイ「・・・・・・いや・・・」



考え過ぎ、か・・・



ヤクモ「どうした、ルイ?」



ルイ「なんでもない。先を急ごう、彼女に置いて行かれてしまう」



脳裏に甦るのは、ミドウからエマを庇うようにして護るジャック



あの炎に包まれた街で、ジャックは確かにエマを護った



自分より一足先に動き出していた事を考えると、反射的に行動したのだろう



それが、少し羨ましく思えた



俺がもう少し早く動いていれば



言葉ではなく、行動を取っていれば



彼女を、護れていたのだろうか・・・










ヤクモ「エマ!」



エマ「!!」



砂の中から現れた堕鬼(ロスト)



それに一歩遅れを取ったエマに、ヤクモが叫ぶように呼びかけた



そばに立っていたルイに腕を引かれ、堕鬼はヤクモとミアが連携して倒した



エマ「ッ・・・ごめん」



呟くような謝罪に、ルイは腕を掴んでいる手に力を込める



ルイ「・・・いつものお前なら、気配ですぐにわかっただろう?」



エマ「・・・・・・」



ヤクモ「ルイ」



責めてやるな、そう言うように呼ぶヤクモ



わかっている・・・彼女がいつも通りではない事など・・・



ルイ「・・・・・・焦る気持ちはわかる。だが先行し過ぎるな。死に戻っては意味がないだろう」



エマ「・・・」



そんな事、彼女だってわかっている



拳が握られ、歯を食いしばるエマ



ルイ「・・・大丈夫、必ず間に合わせる」



エマ「え・・・」



ルイ「繰り返させたりしない。そうだろう?」



ジャックにエヴァを殺させない



お前の時と同じようには、絶対にしない



強い眼差しを向けてくるルイに、エマはバレていたのかと少し驚く



どうやらエマ本人は、その気持ちが伝わっていないと思っていたらしい



エマ「・・・・・・もし、ここで彼が彼女を殺す事になったら・・・私は自分を一生赦せそうにない」



ミア「それって・・・」



エマ「・・・」



無言のまま、エマは歩みを再開する



今の言葉は、二つの意味で捉えられる



彼を止められなかったら、間に合わなかったら・・・止められなかった自分を赦せない



そして、もうひとつは・・・



ルイ「エマ・・・」



自分の背中を見つめる3人に気付かないまま、エマは前に進む



彼女が思い出すのは、クイーン討伐戦時代



聖堂で自分の血英を見つけてからというもの、実は他の場所でもいくつか見つけていたのだ



その内のひとつにあった、別の記憶



最初の血英で見た記憶で、エマはジャックの分隊に配属になり、彼に出逢っていた



だが初めてではなかった



この人、確かこの間の・・・



確かにそう思ったのだ



その謎が、ようやくわかった



ある上官に暴力を振るった後、腹癒せに寝込みを襲われた



勿論、気配でそれを察知したエマが先手を打ち、返り討ちにしたのだが



その後だった



寝直したエマがしばらくして目を覚ますと、そばである男が座っていた



どうやら彼はうたた寝をしているらしく、驚いたエマが顔を覗き込んでも動かなかった



その彼こそが、ジャック・ラザフォードだった



彼がなぜ、何を思ってそこにいたのかはわからない



だが安心して眠れていたのは、きっと彼が理由だと理解する



この時が、エマが初めてジャックを見た瞬間だった



そして彼の分隊に配属になったのは、この出来事の後だ



あの時のあの理由を、私はまだ聞いていない



私と同じで、不器用な人だからこそ、もう失う苦しみを味合わせては駄目



追い付いて、助けて・・・聞きたい



彼にも、彼女にも、聞きたい事がある
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