長編[ルイ]

□第3章
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ミドウ「ジャック君の姿が見えないな・・・本来、継承者の後始末は彼の仕事だというのに」



ヤクモ「探す手間が省けたぜ・・・灰にしてやるよ!」



両手剣を構えて、走り出すヤクモ



振り被って下ろした刃は、どこからか現れた兵士に受け止められた



ヤクモ「何ッ!?」



そのまま相手の剣に押され、弾き飛ばされてしまった



エマ「ヤクモ・・・!」



一番に駆け付けたエマが、ヤクモの前に立って銃口を相手に向けて構える



エマ「!?」



同じような兵士が更に2人現れ、計3人がミドウを守るようにして立つ



ミドウ「どうだ・・・?神骸を受け継いだ、私の実験体の力は。あの子らには感謝しているよ、ヤクモ。いい実験材料になってくれた」



ヤクモ「て、てめぇ・・・!」



エマ「・・・外道が。人を・・・命ある者をなんだと思っている・・・命を踏みにじった数だけ死ね・・・!」



その時だった



ミドウの背後に、赤黒い霧が見えた



エマには、それに見覚えがあった



とっさに、霧が現れている方とは逆−−自分から見て左側を狙い、わざと外して撃った



ミドウの側頭部ギリギリを通るが、彼は微動だにしなかった



直後、現れたジャックが背後から斬りかかる



だがそれは見破られていたのか、ミドウの拳がジャックを殴り飛ばした



消耗していたとはいえ、あのジャックを簡単にだ



ミア「強い・・・!」



ミドウ「ジャック君・・・遅かったじゃないか!仕事をサボって、何をしているんだ?」



ジャック「返してもらうぞ・・・貴様が奪った神骸を!」



ミドウ「取り返してどうする?もはや、器は壊れたというのに」



ジャック「・・・どういう事だ?」



ミドウ「まさか、気付いていないのか?エヴァ君に贈った、私からのプレゼントに。君は、彼女を逃がしたと思っているんだろうが・・・それは違う。私が逃がしたんだ」



放り投げられたそれは、ジャックの目の前に転がった



携帯型の注射器のようだ



ジャック「これは・・・!」



ミドウ「彼女の大切な喉に、試作品を埋め込んでね」



ミア「それじゃあ・・・あの時には、もう・・・」



ジャック「貴様・・・!」



ミドウ「そろそろ、暴走の頃合だろう。暴走した神骸は、やがてグレゴリオの肉体を求める・・・今頃エヴァは、雪山を散歩しているところじゃないか?」



再び斬りかかるジャックだが、今度は兵士の刃に受け止められてしまう



ジャック「ミドウ・・・!貴様だけは・・・!」



弾き飛ばされたジャックは、地面に転がされる



パンッ



ミドウ「ぐっ!なんだと・・・!?」



銃声が鳴り響いた直後、それはミドウに当たった



酷く驚いた様子ではあるものの、大したダメージにはならなかったようだ



エマ「ちっ・・・!」



浅い・・・!



やったのはエマだ



こちらに背を向けている隙に気配を消し、ヤクモ達のそばから離脱



少し高い位置に上り、狙いを定めていた



そしてミドウが完全に油断しているところに、兵士達がジャックに意識を向けているところに



彼女は狙いを定めて撃った



ルイ「エマ!!」



エマ「え?」



何かに気付いたルイが声を荒げるが、すでに遅かった



エマの傍らに兵士の1人が現れ、拳を構えていた



そちらに顔を向けようとした瞬間



ガッ



エマ「あぐっ」



ミア「エマ!」



ルイ「くっ!」



殴り飛ばされたエマを助けようと、ルイが動く



だが彼が地面を蹴る前に、飛び出した男がいた



エマの体を受け止めた彼は、彼女と共に地面を転がる



彼女の頭を庇うようにして抱えて転がり、体勢を立て直すとそばに突き立てていた剣を握る



ジャック「ッ・・・!」



エマを助けたのは、ジャックだった



右手で剣を構え、左手で彼女の頭を自分の胸板に押し当てる



地面に膝を立てている方とは逆の左足では、エマの上体を支えている



白い聖堂での、ルイがエマを助けた時と似たような光景だった



あの時と違うのは、エマの意識がない事



よほど強く殴られたのか、彼女の意識はなかった



ジャックの腕の中でぐったりしている様子のエマを見ながら、ミドウが笑みを浮かべた気がした



ミドウ「・・・・・・なるほど。彼女は確か、クイーン討伐隊時代での君の最後の相棒、だったかな。エレシュキガルという女神の名を付けられた、凄腕のスナイパー・・・そして今は、神骸の暴走を鎮める力を持つ少女・・・面白い実験材料になりそうだ」



ジャック「ふざけるな・・・!こいつには、貴様の指一本たりとも触れさせるか・・・!」



ミドウ「ほう・・・君がそこまで言うとは・・・珍しい。そして興味深い・・・その娘に、どのような魅力があるのか」



ジャック「・・・」



更に鋭い視線で、ミドウを睨み付ける



仄暗い洞窟で、エマの言葉を聞いた時・・・



今度こそは失わない、必ず護ると己に誓った



彼女が自分の事を、どう思っていようと構わない



それが今、自分にできる唯一の償いであり、自分が彼女にしてやりたい事だった



ミドウ「まあいい・・・継承者の後始末、励みたまえ。私は、老いぼれとの別れの挨拶に向かうとしよう」



そう言い残し、ミドウと兵士3人は紫の煙に包まれ、姿を消した



ヤクモ「クソッ、待ちやがれ!」



ジャック「なんて事だ・・・!エヴァ・・・!」



エマ「・・・・・・ん・・・」



ジャック「目覚めたか・・・」



エマ「・・・・・・私・・・気を、失って・・・」



ジャック「そんなに時間は経っていない。ほんの数分、意識を飛ばしていただけだ。立てるか?」



その問いに、エマが小さく頷いた



とはいえ、頭部にダメージを受けたせいもあり、少し足元がふらついた



支えながらエマを立たせると、ジャックはルイに視線を向けた



それを受けたルイが、歩み寄る



支えていたエマの体をルイにそっと渡すと、ジャックは踵を返す



ジャック「俺は・・・エヴァを追う」



歩き出したジャックの背中を見送っていたが、ルイは衣服を引っ張られた感覚に視線を下げる



エマ「ルイ、私達も」



ルイ「・・・大丈夫なのか?」



エマ「もう平気。それに、追いかけないと・・・あの人はきっと、また悔やむ道を進もうとする。そんな事はもう、私の時だけでいい」



ルイ「エマ・・・ああ、行こう」


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