長編[ソーマ]
□2071年、始動
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あれからあっという間に年が開け、慌ただしかった支部内もようやく落ち着いたように思う
そして−−
ヨハネス「おめでとう、君がこの支部初の“新型”ゴッドイーターだ」
適合試験を終え、苦痛に耐えた詩音−−来栖シオンが顔を上げると、右腕には赤い腕輪がはまっていた
そして握っているのは−−神機
ヨハネス「適性試験はこれで終了だ。次は適合後のメディカルチェックが予定されている。始まるまで、その扉の向こうの部屋で待機してくれたまえ。気分が悪いなどの症状がある場合は、すぐに申し出るように。期待しているよ」
エントランスに戻ると、ソファに腰掛けている少年を見つけた
彼が、以前聞いたもうひとりの適合者だろう
「あ、もしかして、あんたも適合者なの?」
シオン「え?あ、はい」
コウタ「オレ、藤木コウタ。よろしくな!」
シオン「く、来栖シオン。よろしく」
コウタ「シオンか・・・なぁ、年いくつ?」
シオン「16、です」
コウタ「やっぱ、年上か・・・同い年か年上かって思ってたからさ。まぁ、一瞬とはいえオレの方が先輩ってことで!」
シオン「は、はぁ・・・」
右手の中指でグリップを押し上げ、眼鏡の位置を直す
あの日ヒビが入った眼鏡ではなく、新しい物だ
ツバキが用意してくれたのだ
無ければ無いでよかったのだが、やはりある方が落ち着く
ツバキ「立て」
コウタ「え?」
ツバキ「立てと言っている!立たんか!」
そばまでやって来たツバキの鋭い声に、2人は慌てて立った
ツバキ「これから予定が詰まっているので、簡潔に済ますぞ。私の名前は雨宮ツバキ。お前達の教練担当者だ。この後の予定は、メディカルチェックを済ませたのち、基礎体力の強化、基本戦術の習得、各種兵装の扱いなどのカリキュラムをこなしてもらう。今までは守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。つまらないことで死にたくなければ、私の命令には全て、YESで答えろ。いいな?・・・わかったら返事をしろ!」
シオン・コウタ「はい!」
それぞれのメディカルチェックの予定時間を告げると、ツバキはそれまでにアナグラの中も見回っておくようにと言った
メンバーに挨拶のひとつもするように、とも
予定時刻となり、シオンはサカキ博士の研究室を訪れる
ヨハネス「適合テストではご苦労だった。私は“ヨハネス・フォン・シックザール”。この地域のフェンリル支部を統括している。改めて、適合おめでとう。君には期待しているよ」
シオン「はぁ・・・あの、支部長がわざわざ・・・なぜここに?」
サカキ「彼も元技術屋なんだよ。ヨハンも“新型”のメディカルチェックに興味津々なんだよね?」
ヨハネス「あなたがいるから、技術屋を廃業することにしたんだ・・・自覚したまえ」
サカキ「ホントに廃業しちゃったのかい?」
ヨハネス「ふっ・・・さて、ここからが本題だ。我々フェンリルの目標を、改めて説明しよう」
そう言ってヨハネスは、主な仕事内容とも言えるそれを説明した
ここ極東地域一帯のアラガミの撃退と素材の回収
それらは全て前線基地の維持と、来るべき「エイジス計画」を成就するための資源となる事
この極東支部の沖合い、旧日本海溝付近に、アラガミの脅威から完全に守られた“楽園”を作るという計画−−エイジス計画の事
ヨハネス「君の場合、自身の事で様々な思いがあるだろうが・・・人類の未来のためだ。尽力してくれ。私で力になれる事があれば、協力しよう。なんでも言いなさい。じゃあ、私は失礼するよ。ペイラー、あとはよろしく。終わったらデータを送っておいてくれ」
そう言って退室していくヨハネスに、サカキは軽く片手を上げて応えた
シオン「・・・・・・あの人が、支部長」
サカキ「どうだったかな?初めて会った感想は」
シオン「・・・・・・ちょっと、胡散臭いです。何か、隠しているような・・・」
サカキ「・・・・・・なるほど・・・それじゃあ、そこのベッドに横になって。少しの間眠くなると思うが、心配しないでいいよ。次目が覚める時は自分の部屋だ。戦士のつかの間の休息というやつだね。予定では10800秒だ。ゆっくりおやすみ」
シオン「はぁ・・・」
目覚めると、また知らない天井が視界に入った
来賓用とあまり変わらない間取りだが、違う部屋だというのはすぐにわかった
荷物もこの部屋に移されているようだ
ひとつだけ、見慣れないダンボール箱があるのを見つけた
そばまで行くと、張り紙があった
−好きに使え
ツバキ−
ダンボール箱を開けると、何着かの服が入っていた
シオン「・・・・・・ツバキさんって、意外と世話焼き?」
つい思った事を口走る
荷物整理を終えると、部屋の外に出る
コウタ「お、シオン!」
シオン「あ」
コウタ「・・・なんでフード?」
シオン「気にしないでください」
コウタ「?」