長編[ソーマ]

□2070年
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リンドウ「・・・で、なんでフード被ってんだ?」


詩音「癖なので気にしないでください」


他人の視線が気になる


制服の時はともかく、私服に着替えて外に出る時はいつもこうだった


フードを被って、壁を作って・・・


だが眼鏡にフードで、リンドウには根暗に見えて仕方なかった


食事の乗せられたプレートを持ち、自然とリンドウと相席になってしまった


食事はいつもひとりだったため、どうも慣れない


知ってか知らずか、無言で食事を取る詩音に対して、リンドウは積極的に話を振った


詩音「・・・・・・」


リンドウ「どうした?食欲ないか?」


詩音「・・・・・・初めて食べる味なので、少し・・・慣れなくて」


リンドウ「あー・・・無理に食えとは言わんが、まあ、このご時世だ。食えるだけでもありがたいと思わないとな」


詩音「・・・はい」


あまり美味しくない


それが正直な感想だったが、口にする前にストップがかかった


やはり、言わなくてよかった


彼らにとっては、これが“普通”なのだから・・・


少し時間をかけて完食すると、トレーの返却口に案内される


リンドウはまた話題を振って、最後まで文句も言わずに付き合ってくれた


時間がかかった事を謝罪するも、細かい事は気にしなくていいと軽い口調で言われた


それからサカキの研究室まで案内してくれたリンドウに礼を言うと、「おう」と一言、笑顔で返された


気さくな彼の態度に、どこか安心感を感じる


研究室に入ると、そこではサカキが詩音を待っていた


サカキ「おはよう、シオン君。よく眠れたかい?」


詩音「おかげさまで」


サカキ「それは良かった。早速で悪いんだけど、君についての話し合いをしようと思ってね」


詩音「話し合い、ですか?」


サカキ「そう、君の経歴についてだ」


詩音「?・・・あ、なるほど」


タイムスリップして来ました、なんて素直な経歴を晒せるわけがない


混乱を招く上、下手をすれば研究対象にされかねない


隠し通すしかないのだ


サカキ「察しが良くて助かる。シオン君が過去から来たというのは、シオン君本人と私とツバキ君。それとヨハンの4人しか知らない機密事項となる」


詩音「ヨハン?」


サカキ「あぁ、すまない。ヨハネス・フォン・シックザール。ここ、極東支部の支部長だ。いずれ紹介する機会もあるから、その時にでも」


詩音「はぁ・・・」


サカキ「さて、一般公開用のデータを捏造しなければならないのだが・・・まずは生年月日。2054年10月28日生まれの16歳になる」


詩音「2054年・・・」


サカキ「そう。君の家は、学校に通えるくらいには裕福な家庭で、住居は内部居住区。先日家族で外部居住区に外出した際−−」


詩音「無理です」


サカキ「ん?」


詩音「私には、無理です。少し事情があって、3年間親とはまともに話してなかったんです。名前で呼ばれる事もなくなって・・・だから・・・親と仲良しこよししてましたなんて経歴、とても演じられそうにないです」


サカキ「・・・・・・わかった。ならこうしよう。両親と大喧嘩して家を飛び出し、壁の外へ抜け出した。連れ戻しに来た両親はアラガミに食い殺され、シオン君だけが生き残った。逃げ回っていたシオン君を、第一部隊が救出−−こんな所でどうかな?」


詩音「・・・・・・それなら、なんとか」


サカキ「それと、アラガミに襲われたショックで記憶障害が起こった事にしよう。昨日ある程度は話したけど、もしシオン君がまだ知らない事を話に持ち出されても、カバーできるはずだからね」


詩音「はい」


修正の入った偽造書類を確認し、次に本来の情報が記載されている書類に目を通す


内容確認を済ませるとサカキに渡し、ソファに腰掛けた


詩音「・・・・・・あの・・・」


サカキ「ん?」


詩音「ここで一番高い場所って、どこですか?」










サカキが教えてくれたのは、ヘリポートだった


屋上とも言えるそこに出ると、ちょうどヘリの整備をしている人達が目に入った


入り口からすぐの手摺りに掴まり、体重をかける


詩音「・・・・・・やっぱり、高い・・・」


下を見ると、外部居住区が見えた


そこを歩く人々がいて、話す人々がいて


詩音「・・・」


何年経とうと、どんな時代だろうと、人間は変わらない


この景色を見て、そう思えた


風が吹き、フードが背中に流される


長い黒髪がなびき、なんとなく眼鏡も外した


今度は肉眼で、空を見上げる


詩音「お前も変わらないね・・・いつもそこにあって、どんどん顔を変えていく・・・」


右手を広げて、空に向かって伸ばす


届かないとわかっていても、届くんじゃないかと思えてしまう


高く、青く澄んだ空を見上げる


その様子を、同じ色の瞳を持つ彼が見つめていたとは、思いもしなかった−−


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