長編[ソーマ]

□2070年
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詩音「・・・・・・また、知らない天井・・・」


翌朝、目を覚まして第一声がそれだった


病室から来賓用の部屋に移り、迎えた朝


昨晩、サカキとツバキからこの世界の事を一通り聞いた


そして、現在の詩音ではここにいられない事も


フェンリルの保護を受けられるのは、ゴッドイーターと呼ばれる神機使いの適性がある者と、その身内だけ


神機とは、オラクル細胞と呼ばれるもので形成されたバケモノ・アラガミに唯一対抗する事のできる生体兵器


その適合候補者となった者は、適合する神機が見つかった場合、適合試験を受ける事が義務付けられている


メディカルチェックの際、サカキが調べたらしい


幸いにも詩音は、“新型”神機の適合候補者だと判明し、適合する可能性のある神機もある


迷いはなかった


「受けます」−−詩音は、即答していた


年明けにもうひとり、適合試験を受ける少年がいるらしい


その予定日に合わせ、詩音も適合試験を受ける事が決まった


正式なフェンリル極東支部の所属が決まるまでは、この部屋で過ごす事になったのだ


詩音「別に、期待してないけど・・・」


目が覚めたら、元の世界でした


そんな夢物語のような結末だったら・・・なんて事は望まなかった


そもそも、自分は2011年で死んでここにいる


帰れる望みはないのだ


むしろこれは、望んだ事なのでは・・・?


誰も自分を知らない場所・・・まさにそうだ


コンコンコンッ


詩音「?はい」


ツバキ「私だ」


詩音「ツバキさん?」


突然の訪問に少し驚くが、体を起こしてドアを開ける


詩音「お、おはようございます」


ツバキ「おはよう。よく眠れたようだな」


詩音「あ、はい。おかげさまで」


ツバキ「着替えを持って来た。必要だろう?」


詩音「あ、わざわざありがとうございます」


ツバキ「それと、お前が元々着ていた物だが・・・なかなか汚れが落ちなくてな」


詩音「あー・・・すみません。あとは自分で頑張ってみます」


だいぶ落ちてはいたが、まだ血痕が薄っすらと残っている制服


それと着替えを受け取る


ツバキ「支度を終えたら、すぐに出て来るように。食堂に案内しよう」


詩音「ありがとうございます。すぐに済ませます」










ついでと言わんばかりに、ツバキはアナグラの中を案内した


とは言っても、食堂に向かう道中だけ


他の細かい部分は、また時間を作って案内できるようにしてくれるとの事


詩音「広いんですね」


ツバキ「そうだな。以前は内部居住区を、地下に向けて建設する計画もあったくらいだ。それなりの広さはある」


詩音「・・・迷子にならないよう、気を付けます」


ツバキ「賢明な判断だ」


食堂に着くと、かなりの人がいた


その大半は右腕に赤い腕輪が着いていて、ゴッドイーターだとわかった


詩音「結構いらっしゃるんですね、ゴッドイーターの方」


ツバキ「これでも人手不足だ。極東支部は最前線だから、自然と戦力増加が課題となる。来る者がいれば、去る者もいるからな」


詩音「それって、戦死って事ですか?」


ツバキ「・・・・・・そういう事だ。食事を済ませたら、サカキ博士の研究室に来るように。病室までの道はわかるか?」


詩音「はい、覚えてます」


ツバキ「その奥にある部屋がそうだ。エレベータを降りて正面に見えるドアだ」


詩音「はい」


ツバキ「・・・・・・本当に大丈夫か?」


詩音「私、物覚えは良い方です」


ツバキ「・・・そうか。ん?」


詩音「?」


ツバキ「ちょうどいい、リンドウ!」


詩音「ッ!」


パーカーのフードを慌てて被る詩音


そんな彼女の行動を疑問に思っていると、呼ばれた本人が来た


リンドウ「おはようございます、姉上・・・って、あれ?お嬢ちゃん、昨日の・・・」


ツバキ「リンドウ、ここで姉上と呼ぶな。お前、確かこのあとは特に予定はなかったな?」


リンドウ「次の任務までちょっと時間はありますが?」


ツバキ「彼女に食堂の案内を。それと、食後にサカキ博士の研究室に案内してやってくれ。私は別件で抜けられん」


リンドウ「了解であります、教官殿」


詩音「あ、あの!」


ツバキ「大丈夫だ、リンドウなら心配ない」


「任せたぞ」と一言残し、ツバキは行ってしまった


リンドウ「あー・・・そういや、ちゃんと自己紹介してなかったな?俺は雨宮リンドウ。よろしくな」


詩音「・・・雨宮?ツバキさんの、弟さんですか?」


リンドウ「ま、そんなとこだ」


詩音「・・・・・・来栖詩音、です」


リンドウ「シオンか、いい名前だ」


詩音「・・・・・・」


そういえば、誰かとこんな風にまともに話をするのなんて・・・何年振りだろうか・・・
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