長編[ソーマ]

□2011年
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最期に覚えているのは、けたたましく鳴り響くクラクションの音


感覚がわからなくなる程の痛み


あぁ、私死ぬんだ−−




















詩音「・・・・・・は?」


そう、あの時、私は死んだはずだ


暗くなる意識の中、直感でわかった


なのに、なんなんだろうか・・・ここは・・・


制服のブレザーは、あちこちが汚れている


白いブラウスにも血痕はあるが、体のどこにも出血箇所はない


まるであれが、夢だったと言われているようで・・・


でも正直、今目の前にある“この景色”の方が、夢なんじゃないかと疑う


右側のレンズにヒビが入った眼鏡の位置を直して、立ち上がる


なんなんだろうか・・・この荒廃した景色は・・・


目を覚まして早々に見た景色がこれとは・・・


そもそも私が何をしていたのか


なぜ死んだはずだと言うのか


そこから振り返ろうと思う




















2011年11月30日


クリスマスという面倒な行事が控える来月を目前にし、少女は面倒くさそうにため息を吐いた


日々冷たくなる風に、長い黒髪が揺れる


冬休みはいつからだったかとふと思い、スケジュール帳を鞄から引っ張り出す


ちょうどその時、後ろからドンっと衝撃を受けた


他の生徒にぶつかられたのだ


ぶつかって来た女生徒は謝りもせず、声もかける事なく行ってしまった


落としたスケジュール帳を拾い、軽く汚れを払い落とす


グリップを左手の中指で押し上げ、眼鏡の位置を直した


「おい、ヤバくね?」


「怒ってないかな?」


「こっちにとばっちり来ないよね?」


「あの子、明日大丈夫かな?仕返しされなきゃいいけど・・・」


少女を見ながら、周りがヒソヒソと話す


ぶつかって来た女生徒ではなく、この少女を怖がっている様子だ


詩音「・・・」


来栖(クルス)詩音(シオン)、16歳の高校1年生


それがこの少女


無表情で、少し鋭い視線


だが、彼女が恐れられている理由は、これではない


中学生の頃の話だ


ある傷害事件の容疑者として、彼女は警察に連れて行かれた事があった


これが原因だ


だが後に、これは警察の誤認逮捕である事が判明


釈放されたのだが、彼女の経歴に影響が出たのは間違いなかった


学校側はなんとも言わなかったが、この話が噂話として徐々に広まった


おかげで中学では肩身の狭い思いをして過ごした


卒業してからは、そんな事もないだろうと思っていた


だが、誰がいつ、どこから拾って来たのか・・・


中学時代の知り合いなどいない高校で、“あの事件”の話が広まった


またあの噂話が、広まってしまった


そうして、現在に至る


真実ではなく、面白味のある噂話の方を信じるのは、人の性なのだろうか


どれだけ訴えても、周りは無実である事を簡単には信じなかった


だから、諦めた−−


真実を訴える事も、信じる事も


誰も信じないのなら、自分が一方的に信じても無意味だ


そう、思い知ったから・・・


ただ沈黙し、時の流れに従う事を選んだ


友人はみんな離れてしまい、両親でさえも彼女を見捨てた


誤認とはいえ、一度着いた黒星は・・・一生その人を苦しめる


それを理解し、全てを諦めた詩音


そんな彼女が、世界からも見放されるとは・・・誰が考えるだろう?
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