STORY

□ブラックコーヒーは飲めない
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思いを告げることなく終わった片想いは、いったいどこに消えていくのか。



Side Yuko


学校からすぐ近くにあるカフェ。12時ジャストに訪れた店内は昼時で混雑していた。
あっちゃんと二人で店内を見渡すと、席はどこも埋まっていた。
キョロキョロと二人で立ち止まったままでいると、店内の奥の方から手が上がった。



「ゆーちゃーん!こっちー!相席しよっ!」


"いいよね、まりちゃん"とメニューを見ていた綺麗な女性に声をかけ、"もちのろん"と答えが返ってくる。
私が動けずにいるとあっちゃんはすぐに、わーいと彼女たちに近づいた。
きっと今すぐにでもお昼ごはんを食べたかったに違いない。場所なんてどこでもよかったのだ。

一人突っ立っているわけにもいかず、私もあっちゃんの後をすぐに追って二人の座っていたテーブルに近づいた。
ドキドキと心拍数は上がり、無意識のうちに前髪を整えた。




「ふふっ、ゆうちゃん久しぶりだね♪」

「そ、うだっけ?こないだ会ったばっかじゃん」

「うそー。もう3日もたった。会ってないもん」


あっちゃんはまりちゃんの隣に座ってしまったから、私は自然と陽菜の隣。
ソファー席を良いことに、私の方に詰め寄ってくる。甘い声と綺麗な横顔。

私はバレないように、息を飲んだ。









先日あっちゃんを待つために構内にあるカフェテリアに一人でいるとき、私は陽菜と再会してしまった。
そのときも今日と同じようにカフェテリアは混雑していて、相席していいかと女の人に聞かれたのだった。私は本を読むのに夢中で、顔も上げずに了承した。混んでいるのに4人席に1人で座ってるのも申し訳ないと思ったからだ。
すると私が座っていた席に3人の女性がワイワイと座りだし、私は彼女たちに囲まれた。
思わぬ展開に驚き、私は咄嗟に顔を上げた。



そこで出会ったのが彼女。小嶋陽菜。
にっこり笑い、まるでわかってたみたいな表情を向けていた。

彼女と視線があって私はさらに驚いた。私が驚いたのは数年前に勝手に失恋した彼女がこんなにも近くにいたことに今日まで気づけなかったからだった。











そしてあの日、陽菜は私のことをその場にいた友人2人に紹介した。あとからやってきたあっちゃんとも、なぜかあっという間に仲良くなっていた。
今日もあっちゃんは、陽菜とまりちゃんと楽しそうに話している。





全員の食事が済み、食後の飲み物を店員さんが持ってきた。
さっきまで大盛りのオムライスを食べていたあっちゃんが空腹から逃れ落ち着きを取り戻し、"ねーねー"と前のめりで話を始めた。



「そういえばにゃんにゃんって、恋人いるの?」

「んー、いなーい。相変わらずいないね」

「陽菜長いよね。大学はいってから恋人いたとこ見たことないよ。篠田に隠してるの?」

「だからぁ、ほんとにいないよ。いたらまりちゃんにすぐに言ってる」


私はコーヒーをおもむろに口に運んだ。
3人の会話にわざわざ加わることはしなかったけど、耳をダンボに、興味だけは誰よりも持っていた。





「にゃんにゃん、好きな人もできないの?」

「えっとねぇ…ふふっ」


その意味ありげな笑いに、私も含めそこにいた3人は視線を陽菜に向けた。



「えっ、にゃんにゃんいるの?だれー知りたいっ」


あっちゃんは興味津々の表情で詰め寄った。
私だって気になる。だって、人に無関心で有名だった陽菜だ。それがにやけた表情をして照れているのだ。
私はちょっと泣きたかった。




「あのね、好きな人と再会したの」

「えーなにそれっ!にゃんにゃんすごいね。運命じゃん!どうどう?いい感じ?」

「わかんなーい。でも最近がんばってるよ。まだ二人で会ったことがないから、近々会えるようにがんばるね」

「陽菜が最近頑張ってる人と言えば、、、あれ、私?篠田?」

「ちっがーう。もぉ、まりちゃんとはいつも二人っきりじゃん」


3人はきゃきゃっと笑っていたが、私は笑えなかった。
きっとまりちゃんと陽菜はずっとそばにいる。あんな冗談を言えるくらいに。いや、冗談じゃないのかも。


残り一口分残っていたコーヒーを一気に流し込んだ。
まりちゃんと続く親しげな会話は、私の繊細な心にひどく引っ掛かった。これまでだって二人の関係はあったのに、突然再会して、突然あの頃の恋心が再発したなんて都合が良すぎる。そもそもあの頃から陽菜は私と恋仲ではなかった。ただ、私が大好きだったのだ。

それなのにどうしようもなく心を黒く染め、いつもよりコーヒーの苦さが舌に残った。
私はその日、一度も陽菜と目を合わせることができなかった。
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