ワールドトリガー
□第6話
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「…嵐山さん、何かいい事でもあったんですか?」
「!よくわかったな充!!」
「あ、いえ、はい…(…任務中以外、いつも以上にふわふわしてたからな…)」
それは任務を終え、広報の仕事も終えた嵐山隊が本部へ戻っている途中の事だった。
「なんですか嵐山さん!女の子ですか?!デートですか!?遂に彼女出来たんですか?!」
「ちょっと佐鳥先輩、そんなプライベートなこと聞いてどうするんですか」
「……そういえば…デート…になるのか…?」
「「………」」
ピシッとでもいうように動きを止めた3人。
「えっ…え?あ、あ、あ、嵐山さん、女の子と出かけるんですか?」
「相手は誰ですか!?」
「お付き合いしてるんですか?」
「…相手は瑠唯なんだが……デート…でいいのか?」
まさかの質問返しに戸惑う隊員。
「えと……楽しみ…なんですよね!」
「ああ!勿論!」
「そ、それは…その…瑠唯さんと行くのが楽しみなんですか?」
「そうだな…瑠唯と一緒に行けるのは嬉しいな!
海の幸の良さを共有出来る機会だし」
「「………」」
「?」
嵐山さんは天然たらしを発揮して一生彼女出来なさそう。(あと、水族館が楽しみじゃなくて隣接してる市場に興味があるのか…)
ふと、そう思った木虎と佐鳥。そして時枝が何かを思いつく。
「…嵐山さん」
「?」
――――――
「あれ?瑠唯さん、今日はどこか行くの?」
オシャレさんだ〜。と、共有スペースで栞ちゃんに言われ、皆の視線が私に集まった。
『まあ…久しぶりにね、ちょっと出かけるの』
「へえ〜、誰と?また迅?」
『違うよ、准と新しく出来た水族館に行ってくる』
「「……」」
『えっ、なに?』
静まり返ったその場に、何事かとそう尋ねれば、ヒソヒソと話し出す栞ちゃんと桐絵ちゃん。
「…瑠唯さん、それってデートってやつですか?」
『何言ってんのとりまる。准がそんなこと考えて誘うと思う?』
「いえ」
いや、即答してやるなよ。と心の中で突っ込めば、桐絵ちゃんがニヤニヤしながら上から下まで私を見る。
「そう言う割に、気合いの入った格好してるじゃない」
『だってあの准の横に歩くんだよ?目立って仕方ないのに変な格好出来ないじゃん』
「なんだかんだで意識はしてるんだ〜」
『栞ちゃん、そんなんじゃないから』
と、話していれば、今から迎えに行くという連絡が入る。
「…そういえば、新しく出来た水族館は少し遠かった気がするが…電車で行くのか?」
『いえ、准が車出してくれるらしいので、それで』
「……それでデートじゃないんスか?」
『それは准に言ってあげなよ』
私だってそこまで鈍感ではないし何も意識しないわけがない。多少なりとも色々考えてる。
市民からも人気高くて、ボーダーのアイドル的存在な彼と、完全なプライベートで遊びに行くなんて烏滸がましいと思う。
ただ、いつどこで誰が見てるかわかんなくて、正直面倒くさいとも思ったけど、珍しく子供みたいにはしゃぐ彼の姿は新鮮だった。
『…たまにはさ、息抜きも必要なんだよ。准はああ見えて責任感強いし、あんまりそういうの表に出さないけど』
「よく知ってるんだねぇ」
『栞ちゃん?』
「まぁ、准は良い奴だからね。私からもオススメしておくわ」
『桐絵ちゃんまでやめて』
とにかく恋愛に結びつけようとする栞ちゃんと桐絵ちゃんに若干怒りつつ、准の到着を待っていれば、おはよーございまーす。と悠一が入ってきた。
「…その格好どうした、瑠唯」
「あ、迅さん」
「瑠唯のやつ、今日准とデートらしいわよ」
「嵐山とデート?」
ちょっと、と止める前にベラベラ喋り出した桐絵ちゃん。
…ああ、もういいわ。説明するのも面倒くさいし、悠一なら色々汲み取ってくれるだろう。
「へぇ……」
「あら、ヤキモチでも妬いてんの?迅」
『桐絵ちゃん、コイツがそんな感情持ってるわけ…』
「俺と寝といて、嵐山とデートするんだ?」
『は?何言って…!』
手を取られたと思えば、急に壁に押し付けられる。
悠一の背中越しに、桐絵ちゃんの目を隠すとりまると、陽太郎の目を隠すレイジさんの姿が目に入った。
『……さすがに怒るよ』
「…なんで?俺が本気だったらどうすんだ?」
『……』
じっと睨み合えば、とりまるの冷静な声が部屋に響く。
「迅さん、高校生にはちょっと刺激が強いです」
「『………』」
パッと手が離れれば、悠一がいつもの調子で、その割にガン見してたな、京介。と笑いながら言った。
全く…と服と髪の毛を整えていれば、チャイムが鳴る。
「すみませーん!」
准の声が聞こえたので、じゃあ行ってきます。と皆に行って、玄関に向かった。
「瑠唯!おはよう!」
『おはよう』
じゃあ早速行こっか。と准と歩き出そうとすれば、よォ。と壁に凭れながらこちらを見つめる悠一。
「迅!今日は休みか?」
「まあな」
ゆっくりとこちらに近づいてくる悠一に、警戒すれば、なんで逃げんだよ。と笑いながら言う悠一。
パシッと手首を掴まれ、一言。
「…やっぱ行くな」
『はあ?またアンタは…今更何言って…』
「サイドエフェクトか?」
そう言いながら、私と悠一の間に立った准。
「…あぁ、危ねえぞ」
「…わかった。何かあったら必ず"守って"みせるよ」
『?…准?悠一?』
何となく不穏な空気に、2人の名前を呼べば、行くか!と、こちらに振り返り、ニッと笑って私の手を引く准。
「じゃあまたな、迅。今日1日瑠唯を借りるぞ」
「はいはい」
『…行ってきます』
そう言った後、振り返ろうとしたが、ぎゅっと握られた手が、まるでダメだと言ってるようで、私はそのまま歩き出した。
「………」
「迅さん、本命には手が出せないんだね」
「…言ってくれるねえ、宇佐美」
「アレはないと思いますよ、迅さん」
「16歳に言われてどうするんだ、迅」
「京介もレイジさんも厳しいな〜」
頭を掻きながら、ははは、と笑う迅。
「…嵐山さん、珍しく本気じゃなかったスか?」
「確かに!」
「え、准、ようやく瑠唯が好きってことに気づいたの?」
もう3年くらいこんな感じだったのに。
小南のその言葉にふと思い出す高校時代。
「…誰かが言ったんだろうな」
「……まあ、何とかなるよ」
ふっ、と笑う迅だがいつもの余裕は見えなかった。