僕のヒーローアカデミア

□第8話
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レクリエーションの前に、本戦の組み合わせのくじ引きが行われる。

レクリエーションは、本戦の参加者は各自の判断らしい。


『(普通に考えて、あの2人のどっちかとは当たるだろうなぁ…)』

「んじゃ1位チームから順に……」

「あの…!すみません」


そう言って手を挙げたのは尾白くんだった。

なんだなんだと視線が彼に集まると、尾白くんは辞退を申し出た。

どうやら、ある人の個性か何かで、騎馬戦終盤まで記憶がないらしく、皆が力を出し切って着いた座に並ぶことは出来ない、とのこと。


『(…尾白くん、確か普通科の……宣戦布告しにきた彼と組んでたハズ…)』

「……」


…心操くん…?だっけ?

チラリと一瞥すれば、向こうもこっちを見てすぐに目を逸らす。


『(個性、か……)』


先程の尾白くんの言葉に、同じチームだったB組の子も辞退を申し出ると、ミッドナイト先生が、好み!!と2人の申し出をOKした。

2人抜けた分の繰り上がりは、鉄哲チームの鉄哲くんと塩崎さんになり、その後くじ引きが行なわれれば、組が決まる。


「わ、舞ちゃん1回戦目はラッキーだね!」

「それはこっちのセリフさ!女子だからって手加減はしないよ!」

『勿論、私だって本気でいくから』


ニコリと笑えば、アンタの愛想笑い怖い。と響香に突っ込まれた。


"よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!!"


レクリエーションが始まると、透ちゃんや梅雨ちゃん、三奈ちゃんははっちゃけるように皆の応援を始める。

お茶子ちゃんも共にはしゃいでいるが、多分緊張を解すためだろう。

…なんてったって…。


『(1回戦目から勝己くんだもんなぁ……)』

「舞、アンタもここに居るの?」

『そうだなぁ…もうちょっとしたら着替えて静かな場所にでも行こうかなぁ……』

「そっか」

『響香は皆と一緒に応援しないの?』

「恥ずい」


少し顔を赤らめ、身体を隠す響香に、ギュゥゥンと胸を締め付けられた。

…か…可愛すぎる…!!!


『んっ…ふ、そ、そっか…』

「笑うな!」

『違う違う…か、可愛すぎて……』


よしよし、としゃがみ込んでいる響香の頭を撫でていれば、少し隅に寄りポンポンを持っている百が目に入った。


『…じゃあね、響香』

「うん。応援してる」

『ありがと』


百の方へと向かい、彼女を呼べば、え?と肩を揺らした。


「どうかしました?」

『ううん、1回戦目は常闇くんなんだね』

「え、ええ…舞は青山さんでしたね…お互い、頑張りま…」


その途中で百の頬をギュッと掴み目を合わせる。


「はっ、はひ…?!」

『2回戦で会おうね』

「!!」


そう言って手を離し、踵を返した時、舞!!と呼ばれた。


『?』

「舞には、負けませんわ…!!」

『…望むところ!』


にひひっと笑って手を振り、更衣室で体操服に着替えて色々とウロウロしてみる。


『(…どこか、何かないかな…)』


ふらふら歩いていると、目に入った赤色の髪の毛。


『(轟くんだ……)』


集中しているのか、神経を研ぎ澄ましているのだろうか、じっと1点を見つめる彼に声を掛ける勇気は出なかった。


『(…なんて言えばいいか、わかんないや……)』


その場を離れようと一歩後ろに下がると、ガサッという音で気がついたのか、嘉風?と呼ばれた。


『あっ…ごめん、その、集中してたのに…』

「いや、いい」

『…隣、いい?』


…声を掛ける勇気なんて、なかったはずなのに。

だけど、どこか哀しそうな轟くんの顔を見て放っておけなかった。


『……』

「……」

『…ねぇ、轟くん』

「なんだ」

『やっぱり…左は使わないの?』


彼を見ることが出来ず、真っ直ぐ前を向いたままそう尋ねると、すぐに、あぁ。と返ってきた。


「クソ親父の個性なんざ使わなくとも、俺は1位になってやる」

『……足元掬われるかもよ、轟くん』

「…どういう意味だ」

『皆…全力で自分の力"全部"出し切って戦ってるんだ。それなのに、半分の力だけで勝とうとするの?』


今度は彼の顔を見て言えば、あからさまに眉を顰めた轟くん。


「…テメェに、何がわかんだよ」

『……』

「なんの躊躇いもなく…"両方の個性"を使えるお前に」

『!』


その言葉に、私は言い返せなくなってしまった。


「普通に愛されて育てられたお前に俺の何がわかる」

『……』

「両親をどっちも誇れるお前に…全てに恵まれたお前に…何かを言われる筋合いはねえ」

『!!』


パシン!と乾いた音が響いた。


『っ、全てが恵まれたなんて…っ、轟くんに言われたくない!!!』

「?!」

『当たり前に両親がいて、兄弟がいて、誰かと一緒に過ごしてる轟くんに!!』

「……」

『…!ご、ごめん……』


頬に触れようとすれば、その手は掴まれ、ギュッと手を握られた。


「…大した痛みじゃねえよ。簡単にソレ使うな」

『……』


ゆっくりと手を離し、もう一度ごめんね、とだけ言いその場を離れた。


「(何言ってんだ俺は…)」

『(思わずあんなことを言ってしまった…違うのに……)』
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