ワールドトリガー

□第14話
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「瑠唯、女の子も強く生きなきゃダメよ。男の子に負けないくらいね」

『どうして?』

「自分の大切なものを守るためよ」

『たいせつなものを…まもるため…?それは、だれからまもるの?』

「…大切な人を傷つける人から…かな」

『…それって、』



『………』


ゆっくりを瞼を開ければ、目の前に広がるのは青い空。

…あぁ、寝ちゃってたのか、私…。

悠一の指示で、本部の屋上で待機しといてと言われ、暇だから寝転がっていたら眠っていたらしい。


『ふぁ……』

「瑠唯」

『!びっ…くりした…なに、いつから居たの?』

「ついさっき。お前が寝てるのが視えてたからな」


トリオン体とはいえ、よく外で寝られるなー。なんて言う悠一は私の隣に座る。

そんな奴の左足に目がいった。


「ん、なに」

『……』


無言で肩パンすれば、悠一は笑う。


『……寂しくなったね、"左側"』

「寂しくないよ」

『うそつき。…最上さんが怒らなくても、私が怒る』

「まだ引きずってんのか〜?俺も最上さんも気にしないって」


ポスッと悠一の肩に頭を預ければ、どうした?と尋ねてくる悠一。


『…平和だなあって』

「……そうだな」

『いつ来るの』

「まだわからないよ。でもいつ来てもおかしくない」

『…4年半前より、おっきいのかな』

「…多分な」


そっか…と返事をすれば、撫でられる頭。


「…お前、黒トリガー使うなよ」

『?なんで?いや、まぁハイリスクなもんだから、相当危険な時じゃなきゃ使わないけど…。

…それとも、それを"使わせる"程の相手が現れるってこと?』

「…ああ」

『なら、時と場合によるね。一般人が居れば、私たちは助けなきゃいけない。本部の命令なら尚更「それはないよ」


言葉を遮られたかと思えば、真っ直ぐ私を見つめる悠一。


『……何隠してるの』

「言えない。言ったら、お前は揺れる」

『……』

「頼む。普通のトリガーで闘ってくれ。じゃなきゃ…お前は約束を守れない」

『……わかった』


凭れていた身体を元に戻し、悠一の背中を思い切り叩いてから立ち上がる。


「いてて…容赦ないなぁ」

『トリオン体だから痛くないでしょ。

…私は、私のやるべき事をやるよ』

「………」

『大丈夫、ちゃんと皆の元に帰るから。

それに、こんな面倒な"家族"を置いて、どこかへ行けるわけもないしね』

「………」

『ほら、こんなとこに居てていいの?悠一にはまだやることが…』


そう言っていれば、うお、と声を出し、空をじっと見上げて静止する悠一。

私も空を見上げれば、明るかった空が一瞬で暗くなる。


「…早いな」

『来たんだ…』


ヴヴーーッ!と鳴り響く警告音。そして、次々に開く門から現れる大量のトリオン兵。


「…気をつけろよ、瑠唯」

『そっちこそ』


フッと笑って、コツン、と拳をぶつければ、悠一はすぐに飛び出した。

そして、悠一が飛び出してすぐ、国城。と忍田さんの声がする。


『《…はい、こちら国城》』

「《今、まだ本部の屋上だな?トリオン兵が6方向へ分散してる。国城は南東に向かってくれ》」

『《国城、了解》』

「《くれぐれも無茶はするなよ》」


そう後押ししてきた忍田さんに、悠一から何か聞いてるんですか?と尋ねれば、ああ。と返ってくる。


「《…不服だろうが、わかってくれ。君のためだ》」

『《…了解》』


通信を切り、地上に降りれば、既にうじゃうじゃと市街地に向かって動くトリオン兵。

アイビスを取り出し、上へ向かって撃てば、一瞬空が晴れる。

そして、撃った瞬間、トリオンに反応したトリオン兵達が一斉にこちらへ向いた。


『……かかってきなよ、ネイバー共』


迫りくるトリオン兵を完全に蹴散らせば、すぐに出来上がるトリオン兵の山。

…建物はちょっと(だいぶ)なくなっちゃったけど…まあ仕方ないよね。被害抑えるためだし、うん。


『《…本部、こちら国城。南東のトリオン兵は排除し……》』


本部への報告の途中、バキバキと音を立てて現れたのは、二足歩行のウサギのようなトリオン兵。


『!(新型か…!?)』

「《国城、各地区で新型のトリオン兵が現れている。トリガー使いを捕獲するためのトリオン兵だ》」

『(トリガー使いを…捕獲…!)』


…皆が危ない。ベイルアウトがあるにせよ、危険な目に遭うのは間違いない。


『(とりあえずコイツを片付けて他の隊員と合流する方がいいな……)

《忍田さん、たった今、新型と思われるトリオン兵と遭遇。交戦します》』

「《あぁ、油断するな。恐らく、アフトクラトルの兵だ》」

『(近民界でも相当な軍事力を持つところか…厄介なところが攻めてきたな…)

《…新型を片付けた後、他の隊員と合流します。手が回ってない地区の……》…!!』


ドオォオン!!!!


「《国城!無事か!応答しろ!》」

『《平気です。軽く吹っ飛ばされただけなんで》』


…想像以上だな…これは面倒くさい…。


『(新型の相手をしてる間に"他"で市街地を目指す、か…こっちの力を分散させた隙に、私たちを捕獲しようってこと…。で、こっちが合流すれば、市街地を狙う……わかりやすいな…)

《忍田さん、また連絡します》』


プツッと通信を切り、徐々に近づいてくる新型にアイビスを向ける。


『(もう、建物への被害は大目に見てもらわなきゃな……)

…吹き飛べ』


ドカァン!!と撃てば、その辺にいたトリオン兵も何体か倒れてく。

…とりあえず市街地に向かわなきゃ行けないか…。


『(あぁ、嫌だ。こういう時…自己嫌悪になる……)』


市民とボーダー隊員、どちらが大切かなんて、私には決まり切った答えだ。

けど、私は、私たちは兵士なんだと、思い知らされる。


『(皆……どうか無事で……)』


――――――


「キャー!」

「助けてくれえ!!」

「ボーダーは…っ、ボーダーは来ないのか!?」

『バイパー』


ドドドド!!!!


「ぼ、ボーダーだ!助かった!」

『早く逃げてください。1人で抑えるのにも限界があります』

「ありがとう!」


市民を逃がしつつ、トリオン兵を倒して行けば、徐々に静かになる街。


『(基地からだいぶ離れて市街地まで来たけど……この辺りは比較的避難が進んでいたのか……)』


ふと上を見上げれば、誰かがベイルアウトするのが見えた。


『(1人目…新型にやられたのか…大丈夫かな……)

《…本部、こちら国城。警戒区域を突破していたトリオン兵も抑えました。戦力のいる地区の位置を…》』


と、話していれば、ジジっ…と通信が乱れる。


『《本部…?》』


基地の方へ振り返れば、ドドドド!と攻撃されていた。


『(爆撃型のトリオン兵…!)』


砲撃で迎え撃つも、取りこぼした一体にぶつかられる基地。


『(やばい、後続三体…白弧の斬撃は…さすがに届かないか…)』


急いで高いビルに上り、アイビスを構える。


『……墜ちろ』


一番後ろのトリオン兵のモノアイに狙いを定め、引き金を引いた瞬間、前に居た一体がズバッと4つに斬られた。


『……太刀川さんか…』

「《瑠唯、お前どっから狙撃してんの?》」


相変わらず機械みたいな狙撃だな。と、太刀川さんから通信が入る。


「《つーかお前どこに居んの?1人なんだろ。迅からお前が危ないことは聞いてんだ、加勢に行くぞ》」

『《随分余裕ですね。私と太刀川さんが同じ地区に居たら戦力が偏り過ぎます。さっさと新型倒して他に加勢してください。こっちは平気です》』

「《…っと、今忍田さんにも言われた〜。気ィつけろよ、瑠唯。行けそうなら行く》」

『《!…ありがとうございます》』


太刀川さんとの通信を切れば、すまない、国城。助かった。と忍田さんから通信が入った。


『《こっちは大方片付きました。今のところ市民への被害は出してません。私はどこへ向かえば…》』

「《わかった。なら、C級隊員と市民の避難誘導をしながら、西へ進んで行ってくれ。東部には風間隊がいる》」

『《了解》』


通信を切り、C級隊員達の元へ向かおうとした時だった。


「助けてくれ!!」


その声に振り返れば、スーツを着た男が瓦礫の前に立っている。

どうしました、と返事をし、近づいていけば、何故か足が止まった。

…心臓が、やたらとうるさい気がする。なんで、冷や汗なんてかくの。トリオン体でしょ…なのに、なんで………。


『(なん、で………)』

「部下達が建物の中に…!」

『(どうして……アンタがここに居るの………)』


もう、二度と会わないだろうと思っていた相手。二度と会いたくもなかった相手。

それが、今、目の前に居る。


「頼む…助けてくれ…!」

『(お父さん………)』
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