2人の英雄
□第2話
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I・エキスポ出発前日。
学校側にコスチュームの持ち出しの申請をしていた為、轟くんと雄英へと向かった。
『相澤先生、申請していたコスチュームを取りに来ました』
「あぁ、ちょっと待ってろ」
そう言うと先生は奥の部屋へと入っていき、すぐにケースを持ってきてくれた。
「2人で行くのか?」
『?はい』
「…大丈夫だとは思うが、くれぐれも面倒に巻き込まれるなよ」
『はーい』
「ありがとうございます」
ガラガラガラ…と扉を閉め、今度は家路へとつく。
『楽しみだね、明日から』
「あぁ、そうだな」
『コスチュームは受け取ったし、あとはレセプションパーティー用のドレスだな…』
「…正装、もう用意してあんのか?」
『?いや、百が貸してくれるって言ってたから、当日借りようと思ってたけど…どうして?』
「じゃあ、俺が用意するから八百万にはなんか上手く言っといてくれ」
『えっ、いいよそんな!悪いし…』
そう言えば轟くんは少し考える素振りをして、私をじっと見る。
「…自分好みにしてみてえんだ、ダメか?」
『………はへ…』
その言葉にどこまでの、どんな意味が含まれていたのかはわからない。だけど、嘘偽りのない言葉に思わず顔を紅くしてしまった。
「嫌、って言わねえならそうするぞ」
『も、もう…ほんと……そういうとこ………』
その後、家まで送り届けてもらい、明日の予定を確認してから、轟くんと別れた。
『(ほんと…天然なのか確信犯なのか………ズルいよ…)』
あー…と未だに熱い顔を冷ますようにパタパタと手で扇ぎながら、私は明日からの荷物をまとめた。
――翌日。
空港まではタクシーで行くため、とりあえず私の家に集合し、一緒に空港へと向かう。
『(飛行機とか久しぶりだな…)』
「すげえな、こんな近くで飛行機見るの初めてだ」
『乗ったことない?』
「…ねぇな」
『飛行機ってさ意外と怖くないんだよ』
「?怖いもんなのか?」
『初めてのものってなんか怖くない?大きくなってからは何も思わないけど』
そんなもんなのか。と、轟くんと会話をしながら搭乗手続きやら、出国審査やらを受け、飛行機へと乗り込んだ。
初めての飛行機に、色んなものに反応する轟くんを楽しみながら、数時間すると、I・アイランドが見えてきた。
『わ、見えてきたよ轟くん!』
「あぁ。思ってたよりでけぇな」
『楽しみだね!』
「おお」
当機は間もなくI・アイランドへ到着致します…。というアナウンスが流れ私たちはコスチュームに着替え、着陸の準備をした。
…そして、
『うっはぁぁ…!!着いた…!!』
「生で見るとすげえな…」
『パビリオンも面白そうなのばっかりだね…個性の使用が自由だからこれ程のエンターテインメントが出来るんだな…
あ!轟くん!なんか面白そうなアトラクションもある!後で行こ!』
わああ…!と思わずはしゃいでいれば、ふっと薄ら笑う轟くん。
『?どうかした?』
「いや、舞がはしゃいでるのなんて見慣れねぇから」
『あっ、ご、ごめん…つい…』
「何で謝んだ。別にいいだろ」
何から行きてえ?と、パンフレットを持つ轟くんに、じゃあまずは…と入口すぐのパビリオンへと向かった。
「すげえ……」
『本当に…この開発で、どれだけのヒーローが救われてるのか……』
入口すぐのパビリオンにはヒーローの為に開発されたサポートアイテムの数々。
中にはヒーローの為に作られたコスチュームも飾ってあった。
『すごいなぁ…。あ、あれ相澤先生の捕縛武器と似てる』
「本当だ」
『警察の人達が使ってそうなものも多いね』
「…敵引き渡し係っつっても、一概に仕事はそれだけじゃねぇだろうしな」
じっくりと見て回ってから、今度は次のパビリオンへと向かった。
『楽器!』
「こんなんも考えんのか」
『科学の力で音楽まで生み出すのかぁ…!まあそういう個性の人のためにもなるし…一般人でも楽しめそうだけど!』
響き渡る音色にうわぁ…と感嘆の声を上げれば、音楽、好きなのか?と尋ねられた。
『クラッシャーが楽器好きだったから、私も好きになっちゃったの』
「へぇ…」
『あ、体験もできるよ!轟くんバイオリンとか弾けそう』
「いや、俺楽器出来ねぇぞ」
『イメージだよ!イメージ!』
行こ行こ!と手を引き、体験コーナーへと向かえば、笑顔で迎えられた。
とりあえず片っ端から楽器に触れていってみれば、轟くんのぎこちない動きがまあ面白くてずっと笑ってしまっていた。
『はーっ!楽しかった!轟くん意外すぎて!』
「ムッ)俺だって出来るやつはある」
『わかってるわかってる。はー楽し!』
オイ、わかってねえだろ。と子供のように拗ねる彼に、ごめんごめん。と謝ればムッとしたままになってしまった。
『ほら、次行こ?ね?…焦凍くん』
「…それで機嫌直ると思うなよ……」
…あ、バレてた。
ぷふっ、と思わず笑いを零せば、アレ行くぞ。とアトラクションの多く並ぶ方へと向かう。
『わあ…遊園地みたいだね…』
「ん」
グイグイと引かれる手に、一体どこへ行くのかと思えば、辿り着いたのは"お化け屋敷"の文字。
『え゙ッ…は、入りたいの?』
「…今度は俺に付き合ってくれるよな、舞ちゃん?」
『〜〜〜ッ!!』
久しぶりのその呼び方に思わず赤面し、返事が出来ないでいれば、そのまま中へと引きずり込まれた。
『あ゙あ゙あ゙…怖い』
「怖いと思うから怖いんじゃねえのか?」
『えっ?どういうこと?』
「怖くねえと思えば怖くねえ」
『いや怖いもんは怖いから』
「お」
『ぎゃあ!なに!!ぎゃああ!!』
個性を駆使して脅かしてくるキャスト達にビビっていれば、思わず個性を放ってしまい、ビュン!と一瞬突風が吹き抜けた。
「…手、繋いどくか?」
『ぜ、ぜひ……』
ギュッ、と、最近指を絡めて繋ぐようになった轟くんに、一瞬ドキリとしつつも、じんわりと伝わる体温によって平常心を保つ。
「俺の背中だけ見てたらいいから」
『!』
…ほんと、ナチュラルに人たらしだなこの人は…!
なんて思いつつ、ありがとう…とボソリと伝え一歩下がって彼の背中をじっと見つめていた。
「…出口、見えてきたぞ」
『やっとだあ…!』
と気を抜いたところで、ばあ!と出てきたお化けに最後の最後、腰を抜かしそうになってお化け屋敷を何とか脱出した。
「楽しかったな」
『そ、それは何より……』
心做しかウキウキしてる轟くんの横顔に、まあ楽しかったならいっか。と一息吐けば、ちょっと座っててくれ。とベンチに座らされた。
『(どこ行ったんだろ…まぁすぐ戻ってくるよね……)』
パンフレットを広げ、次は何処へ行こうかと見ていれば、ヒヤリと頬に冷たいモノが当たった。
『ひゃっ!?へっ!?』
「悪ィ、そんな脅かすつもりはなかった」
『えっ?なに?あ…』
「喉乾いたと思って。だいぶ叫ばせちまったから」
『ありがとう!』
受け取った飲み物を有難く喉に通し、いくらだった?と尋ねれば、別にいい。と断られる。
『ダメだよ。結構高いでしょ?』
「…1杯分は貰った」
『?貰った?』
「…嘘ついちまったからな」
『??』
全く読めない話に、理解がついていけないまま、次行こう。と、轟くんが私の手を引いて歩き出す。
――その後もアトラクションやパビリオンを楽しみながら、私と轟くんのまったりとした時間は流れていった。