2人の英雄

□第9話
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それから3人でケーキを食べたり、ジュースを飲んだりしていれば、クラシックが流れ始めた。


「なんか始まった…?」

『わ、すご…ダンスだ…』


…ダンスなんて、授業でちょっとだけやったなーくらいのレベルだなあ。

なんて、ぼーっと見ていれば、おーい!と飯田くんと緑谷くん、それとお茶子ちゃん、がこちらへやってきた。


「君たちは踊らないのかい?」

「えッ?!」

「さっきパーティーの主催者の人達に"雄英生の君たちも"って言われちゃって…」


苦笑いを浮かべながらそう言う緑谷くんに、私と響香の顔は段々険しくなる。


「踊るって…え、麗日もやるの?」

「あ、え、私はで、デクくんにリードしてもらうことになって…あはは…」

『そ、そうなんだ…』

「僕もこの間授業でやった簡単なものしか覚えてないけど…」

「俺は八百万くんを誘おうと思ってな」


飯田くんは百に手を伸ばすと、百は、是非。と手を取り、歩き出した。


『2人は様になるなぁ…』

「っていうか踊るにしても私らペア居ないし…」

「そう言えば…上鳴くんと轟くんは?」

「『え?』」


緑谷くんのその質問に、思わず響香とハモる。


「な、なんで上鳴!?」

『そ、そうだよ!なんで轟くん…!』

「い、いや…2人とも今日来てる人達の中なら、その2人が一番仲良いと思ったから…」

「はあ!?」


別にそんなんじゃ…!とその時、あ、じろー!と上鳴くんがこちらへ来た。


「か、上鳴!?」

「なあなあ、なんかダンス始まってんだけどよ、耳郎ペア決まってねえなら俺としねえ?」

「は…!?なんっ、で、あんたと…」

『上鳴くん!丁度よかった!』


ポンッと背中を押せば、ふらついた響香の身体は上鳴くんの方へ傾く。


「わっ!」

「おっとと…」

「〜〜〜っ!ちょっと!舞!」

『ごめんごめん!上鳴くん、響香のことよろしく』


ヒラヒラと手を振り、そう言えば、おーよ!と響香の手を引いて行った上鳴くん。


「嘉風さん、1人になるけど…大丈夫?」

『うん。私は踊んないし、いいよ』

「…舞ちゃん、さっきたまたま聞こえたんやけどね…ダンス参加したら……粗品貰えるって」

『………』


ぽつり、とそう言ったお茶子ちゃんの目はちょっとだけ黒く見えた。

…これは乗せられたに違いない気がするけど…貰えるものは貰わなきゃだよな…!うん!!


『…ペア探す!!』

「よっしゃ!じゃあ轟くんを…」

「オイ」


と、轟くんを探そうとした時だった。

聞き覚えのある、ドスの効いた声がする。


「爆豪くん!」

『勝己くん、どうして「やんだろ」


ん、と私に手を伸ばした彼。


『えっ…え?やってくれるの?切島くんは?』

「…クソ髪はやらねえって」

『そ、そう…』

「…じゃあ爆豪くん!舞ちゃんのことよろしくね!!」


と、私がさっき言ったセリフをニヤニヤしながら言ったお茶子ちゃん。


『(もう……)』

「…おい」

『?なに?』

「精々足が縺れねぇこったな」


ニヤ、と口角を上げて言った彼に、余計なお世話だし。なんて強がってみたものの、彼の言葉通りになるのは目に見えてわかっていた。


「……」

『…ねえ、無駄に静かにならないでくれない?逆に辛い』

「ここまでとは思ってなかった」

『ですよね!!!!』


まだ数分前よりかはマシになったが、踊り始めは散々だった。

特別長い丈のドレスでもないが、ヒールに慣れてない私はとにかく足元がフラフラしていた。


「だせぇ」

『うるさい』


勝己くんはというと、私をリードしつつ、転けそうになれば手を引いてバランスを崩さないようにしてくれていた。

…くっそ、ほんと才能マンだな…。


『…ねぇ、勝己くん』

「ア?」

『なんでわざわざ私のとこ来たの?ダンス始まってちょっとしてから切島くんと、スラッとしたキレイな女の人に誘われてたでしょ』

「そんな奴から誘われた記憶なんざねえよ」

『嘘つき。ちゃんと見てたんだよ』

「…別に、嘘じゃねえ。つーか勝手に見んな」

『こんなとこまできてブチギレられたら堪んないし。ちゃんと見ておかないと何しでかすかわかんないから』


ふふ、と煽るように笑いながら言うと、転かすぞ。と腕を引っ張られた。


『わっ!ちょっ!』


ぐらりと傾いた身体を支えられ、何してんの、と抗議しようと顔を上げれば、思っていたよりすぐ近くにあった勝己くんの顔。


『…?勝己くん…?』

「…ちょっとは見ろや」

『え…?』

「俺ァ、半分野郎とは違ぇよ」

『なに…言って……!』


勝己くん越しに見えたのは、轟くんと、知らない女の人が踊る姿。

自分なんかよりも、遥かに綺麗で、ドレスを着こなしてて、華やかで、勿論ダンスも完璧で。

手足も白くて細くて綺麗で、傷なんてついていなくて…。

…ああ、自分とは違う世界の人だ。


『……』

「…そんな面になんなら見んな」

『!』


グイッと手を引かれ、勝己くんの胸に飛び込む形になる。

そして、ホールドするように腰に回る勝己くんの手。

…これじゃ、まるで、


『(まる、で……)』

「舞」

『っ!』


顎を掴まれ上を向かされれば、自然と紅い目と合う。

熱を帯びているような、彼の目に吸い込まれるように見つめていれば、近づいてくる顔。


『!?ま、まって、勝己く…』


堪らずぎゅっと目を瞑れば、少ししても何も起こらない。

あれ?とゆっくり瞼を開けて見れば、眉間にシワが寄っている勝己くんの顔が飛び込んできた。

そしてその瞬間に腕を引っ張られ、勝己くんから離れると、そのまま歩き出した手を掴んだ人…。


『ちょっ!ど、どうしたの!

轟くん!!』

「………」


彼は無言でバルコニーに出ると、私の手を離した。


『と、轟くん!ほんとに、どうしたの?』

「……」

『轟くん…?…いっ!』


ギュッと握られた時に、思わず声を漏らせば、ハッ!となった彼が今度は優しく手を掴んだ。


「…悪ィ、強く掴みすぎた」

『いや…平気だよ』


個性で手首を冷やす轟くんは、どこか悲しげで、


『…どうかしたの?さっきまで踊ってたんじゃ』

「爆豪とキスしてたよな」

『え?』


目線は手首に向けたまま、ぽつりとそう言った轟くん。


『あの、さっきのはちが…』


言葉の途中でふに、と唇に轟くんの指が触れる。


「…したん、だよな……?」


眉を下げ瞳を揺らす轟くん。


『…してないよ』

「!」

『未遂…ではあるけど……でも、してない。する前に、轟くんが引っ張ってくれた』


そこまで言えば、ギュッと抱きしめられる身体。


「…自分勝手で悪ィ…」

『?』

「…俺と一緒に居ても、男はやってくるし、お前が知らねえ男と一緒に居るのはすげえムカつく。だから、八百万達に任せてたが…爆豪と踊ってるのも腹立った」

『…う、うん……』

「…付き合ってるわけでもねえのに、こんなにも嫉妬しちまう」


ハッキリと私を見て言った轟くんに、思わず赤面すれば、優しく微笑んで私の頭を撫でる彼。


「……勝手に連れ出して悪かった。中に入るぞ」

『…ご、ごめんね、轟くん』

「?なんで舞が謝んだ?」

『…ほんとは、その、返事…しなきゃいけないんだけど……』

「まだ言えねえんだろ。無理に言う必要はねえよ。お前なりに悩んで、答えを出してくれりゃそれでいい」

『……ありがとう…』


気にすんな。そう言って指を絡めた轟くんの熱が伝わり、じんわりと温かさを感じる。

…ごめんなさい。まだ、ダメなんだ。

まだ、引っかかることも、気になることもあって、心配を掛けたくなくて…だから、待たせてしまうけれど…


『(いつか、必ず………)』


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