2人の英雄
□第9話
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翌日。
I・アイランドの都市部から少し離れた湖畔で、私たちA組21人とオールマイトでバーベキューを行っていた。
『美味しいね』
「ああ」
昨日の事件については、I・アイランドの責任者と警察の人達の判断の元、私たちの将来のために、敵と戦闘したことは公表しないこととなった。
それに若干の不満がある者もいれば、特に意見のない人、こうなって当たり前か、と納得する人がいた。
『……』
「どうした?」
『…いや、昨日のあの出来事が嘘みたいだなあ…って』
空を仰ぎながらそう言えば、そうだな。と轟くんも顔を上げた。
『…総合しても、戦闘したのは1時間も満たなかったとは思うんだけどさ、長い1日みたいに思えたね』
「…"あの時"みたいにか?」
"あの時"というのは、恐らく先日のヒーロー殺しとの戦闘のことであろう。
あれも、時間で言えば数分だった。だけど、体感では1日のような気もした。
『…将来、プロになって、ちゃんと公的に闘えるようになったら…毎日あんな感じなのかな』
「…どうだろうな。実際、なってみねえとわかんねえよ」
『まぁ、そりゃそうだよね』
考えたって今答えが出せるわけではない。何度思考を巡らせても、きっと同じだろう。
ぐるぐるとそんなことを考えていれば、そう言えば、と言葉を紡ぐ轟くん。
「昨日のレセプションパーティーの振替、別会場で今日の夜やるらしいぞ」
『エッ、何それ聞いてない。ドレスないんだけど!?』
「それはなんとかする」
『頼もしいけどそうじゃない……』
…百達も知ってるのかなあ……。
と、話しかけようと試みるも、目を輝かせながら、次から次へとお肉を頬張る彼女に、話を切り出すタイミングを見失ってしまった。
「他の奴らも来るだろ」
『それならいいんだけど…』
「……2人は嫌なのか?」
ムッとあからさまに眉を顰めた轟くんに、そういう意味じゃないよ。と言うも、彼の機嫌を損ねてしまったみたいで。
『もう…ごめんってば』
「思ってねえだろ」
『思ってるよ。…2人だとなんとなく緊張するから、ちょっと不安なだけ』
「緊張?」
『……スーツ…カッコよかったから…』
ぼそ、とそう言えば、今度は満足そうな顔になった轟くん。
「そうか」
『もう、頭撫でないで』
「そうか…」
『もおお…轟くん!』
と、そんなやり取りをしていれば、イチャイチャすんなー。と上鳴くんが私達に言った。
「悪ィ」
『違うよ!?イチャイチャなんてしてないから!』
――――――
『…で、これは……』
「貸してくれた」
バーベキューの後、轟くんは緑谷くんと飯田くんと共にどこかへ行った為、私は女子皆でI・アイランドの散策をして時間を過ごしていた。
で、レセプションパーティーの準備の為、ホテルに帰ってきてみれば自分のスーツと、はじめに持ってきたのと似たようなドレスを手にしていた轟くん。
「パーティー用に貸してくれたんだ」
『そうなんだ…あ、もしかしてわざわざこれを取りに…?』
「まぁそれもあるが…別に大した用じゃねえし気にすんな」
『そっか。でもありがとう』
「おお」
お互い準備を終え、姿を見せ合えば、昨日と同じ反応になった。
「…似合ってる」
『うっ…あ、ありがとう……轟くんも…似合ってます……』
2人で新たな会場へと向かおうとロビーに出れば、あ!と声がする。
「轟!嘉風!」
『!切島くん!勝己くんも!っていうか、同じホテルだったの!?』
そうみてえだな!と笑う切島くん。2人も恐らく借りたのだろう、昨日とは違うスーツに身を包んでいた。
ついでに一緒に行こうぜ!という切島くんに、勝己くんがはァ!?と言うも、わかった。と話を進めた轟くんに、私も頷くしかなかった。
「肉出んのかな〜」
「昼間も肉食ったけどな」
『なんか甘いもの摘むだけでいいや私』
「ケッ…」
会場へ着けば、入口に飯田くんや緑谷くん、百達に加え、今度はきちんとスーツを着た上鳴くんと峰田くんがいた。
『あれ?2人も入れたの?』
「メリッサさんの計らいでな!」
『そうなんだ!よかったね』
おうよ!とテンション高めの上鳴くんや峰田くんはすごく嬉しそうだった。
「緑谷、オールマイトは居ねえのか?」
「うん…病院に行くって…。メリッサさんも今日のパーティーには参加しないと思うよ」
『(まぁ…そりゃそうか…)』
では全員集まった事だし、中に入ろう!と声を上げた飯田くんに続き、皆で会場へと入れば、キラキラと輝くシャンデリアに、豪華な料理、綺麗なドレスで着飾った人達がたくさん集まっていた。
『すごいな……』
「ば、場違い感…」
「約3名は慣れてるっぽいけどね…」
動揺しない3人(飯田くん、轟くん、百)はごく自然に人混みの中へ入り、食べ物や飲み物を取っていた。
「舞」
『うわっ、轟くんいっぱい取ってきたんだね…』
「違ぇ、一緒に食べるかと思って」
『へ?あ、ありがとう!こういうの慣れてなくて…助かるよ』
食べ物を受け取れば、飲み物は?と尋ねられ、とりあえずオレンジジュースで、と答えておいた。
…に、しても…本当にすごいな…なんか…お金持ちのパーティーに来てるみたい……。
『(あ、いや…お金持ちはあながち間違いではないのか……)』
「嘉風さん?」
『え?』
振り返ると、同い年か、少し年上くらいの男の子が立っていた。
「あ、やっぱり…雄英の嘉風舞さん、ですよね?お会いできて光栄です」
『はぁ…』
「雄英体育祭の中継であなたを見て、とても凛々しく、お強い方だと…」
『恐縮です…?』
スッと出てきた手。握手なのだと私も手を伸ばせば、パシッと手を掴まれた。
『!…轟くん?』
「……」
「おや、これはこれは…プローヒーロー、エンデヴァーのご子息様ではないですか」
「……」
「申し訳ないのですが、今僕は彼女に用があって…」
「彼女は"俺の"連れです。
他を当たってもらえますか」
ワントーン低い声で轟くんがそう言うと、男の子はふっと笑ってどこかへ消えた。
「……舞」
『は、はい!』
何故か怒り気味の轟くんに名前を呼ばれ、悪いこともしていないのに、ドキリとした。
「八百万達は?」
『え?あ、なんか、後で合流しようって…はじめは轟くんと一緒に居ればいいじゃんって言われて……。でも、なんでそんなこと…?』
「いや…そうか、なら行くか」
くるりと踵を返し歩き出す轟くんの後を追うように歩いていれば、視界に入るのはヒソヒソとこちら…と、いうか轟くんを見ながら、頬を赤らめ話をしている女の人達。
『(…みんな…轟くんのこと見てる……なんか…――)』
…なんだろう…どうして、こんな気持ち……。
「あら、舞と轟さん?」
『!』
いつの間にか、百と響香の居る場所へ着いていた。
「…2人だけか?」
「あぁ、上鳴と峰田はどっか行ったし、麗日は緑谷と飯田のとこに行ったよ」
「……」
「どうされました?轟さん」
「…いや、舞がこういう場に慣れてねえから」
そう言うと、あぁ。といったような顔の百。
「私にお任せ下さいませ!きちんとお守り致しますわ!」
『え?』
「ウチら割と端にいるし、大丈夫だと思うから」
「ああ、助かる」
それだけ言い残し轟くんは人混みの中に消えていく。
なんだか、何もわからないまま置いていかれたみたいで。でも、手を伸ばすこともできなくて。
『(…今まで一緒に居たのに…もう遠い……)』
「…そんなあからさまに不安げにならなくても」
『へ?』
「轟さんは舞のことを思って私たちの元へ連れてきたんですわ」
『あ…え?』
「どうせ、あんた変な男にでも声かけられたんじゃないの?」
響香が呆れ気味にそう言った。
…まぁ確かに見知らぬ人に声は掛けられたけども。
「轟さんのお気持ちを察すればすぐにわかりますわ」
『……嫌だ、ってこと?』
「そうじゃない?」
身内ならまだしも、知らない男ってねえ…と、ケーキを食べながら言う響香にふと気づく。
『(じゃあ、さっきの"なんか嫌だな"って感覚は知らない人だからなのか……変なことではないのかな…?)』
「ま、とりあえずウチらと待ってようよ。これあげるから」
『えっ!いいの!?やった!!待ってる!!』
「現金なヤツ…」