2人の英雄
□第6話
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各フロアも封鎖されている為、メリッサさんの案内で、非常階段から最上階へた目指すことになり、私達はただひたすら階段を駆け上がる。
「これで30階…」
「メリッサさん、最上階は?」
「はっ…はっ……200階よ」
『にひゃっ…!…はぁぁ……天井ぶち破りたい……』
「…さすがにバレるだろ」
「いや…そうじゃねえよ……」
皆息を切らせながら、200階というなかなか絶望的な数字にげんなりとした。
「ですが、敵と出くわすよりマシですわ」
『ま、確かに……』
とりあえず再び階段を駆け上がっていると、80階に差し掛かったところで、飯田くんが立ち止まった。
「シャッターが!」
「どうする?壊すか?」
「そんなことをしたら、警備システムが反応して敵に気づかれるわ」
「なら、こっちから行けばいいんじゃねーの?」
『!峰田くん!待って!』
「ダメ!」
そう言うも、疲れきった脳みその峰田くんには届かず、扉が開いてしまった。
「ど、どうする…」
『どうもこうも…もう、行くしかないでしょ…!』
互いに顔を合わせとりあえず、反対側にもあるという非常階段へと目指す。
だが、走っている途中でガシャン!ガシャン!と音が聞こえてきた。
「シャッターが!!」
「後ろもですわ!」
『隔壁か…!めんどくさいなあもう!!』
「嘉風キャラが……」
どうすれば、と焦るも、飯田くんが、轟くん!と叫び、2人で閉じる寸前の隔壁を止め、更に隙間から飛び出した飯田くんがとある扉を破壊した。
「この中を突っ切ろう」
急いで中へと踏み入れれば、見渡す限りの植物。
「こ、ここは…!?」
「植物プラントよ。個性の影響を受けた植物を研究…「待って!」
そう制したのは響香だった。そして、その視線の先には…。
「あれ見て!エレベーターが上がってきてる」
『!やっぱり気づかれてたんだ…!』
「隠れてやり過ごそう!」
急いで植物の中へ身を隠せば、上鳴くんが小声で呟いた。
「あのエレベーター使って、最上階まで行けねーかな」
「無理よ。エレベーターは認証を受けてる人しか操作出来ないし、シェルター並に頑丈に作られてるから破壊も出来ない」
「使わせろよ、文明の利器」
そう漏らした峰田くんに思わず、ふふっ、と笑いを零せば、笑い事じゃありませんわ!と百に叱られる。
そして、ポーンと音が鳴り響いた。
隙間から覗いて見れば、恐らく会場内に居た敵で、緑谷くんも気づいていた。
「ガキがこの中に居るらしい」
「メンドーなところに入りやがって」
近づいてくる足音に、皆身体を強ばらせた。
…どうする…相手の個性と実力がわからない以上、こっちから無闇に攻撃したって、逆に不利になるだけだ…。どうする…どうする……!!
「見つけたぞ、クソガキども!」
その声に全員が身を固めた。
だが、
「あぁ?今、何つったテメー!」
「「!?」」
『(なんっ、で…こんなところに…!?)』
誰もが聞き間違えるはずもない、その怒気を含んだ声に、皆茂みから向こう側を覗く。
『(切島くんも一緒か…)』
「お前ら、ここで何をしている?」
「そんなの俺が聞きてえくらい…「ここは俺に任せろ、な!?」
そう言って勝己くんよりも前に出た切島くんは笑顔のまま、声色は申し訳なさそうに前へと近づいていく。
「あのー、俺ら道に迷ってしまって…レセプション会場ってどこに行けば……」
「道に迷ってなんで80階まで来るんだよ…!」
『ぷふっ…』
「舞!」
堪らず笑ってしまえば、再び百に小声で叱られる。
…峰田くんのツッコミがいちいちツボなんだから仕方ないじゃん……。
なんて、心の中で文句を言いながら、彼らのやり取りを聞いていた。
「見え透いた嘘ついてんじゃねえぞ!!」
『!!』
立ち上がり、攻撃をしようとした瞬間、腕を引かれ後ろへと身体を引っ張られた。
そして、目の前に現れた氷壁。
「この個性は…」
「轟!?」
皆で驚く中、氷壁が壊れ始める。
『(敵の個性か…!)』
「チッ…俺たちで時間を稼ぐ。上に行く道を探せ」
轟くんはそう言うと、氷結を私達の足元に作り、そのまた上へと持ち上げた。
「轟くん!?」
「君は!」
「いいから行け!」
『っ!轟くん!!』
身を乗り出し、そう彼の名を呼べば、じっと私を見つめて轟くんが言った。
「ここを片付けたら、すぐに追いかける。無茶すんなよ、舞」
『…っ、轟くんもっ…!』
あぁ、と彼は短く返事をすればすぐに戦闘態勢を取った。
「嘉風くん!急ごう!足止めをしてくれている間に!」
『うん…!』
プラント上部の外周通路の扉を破壊し、外へ出るも隔壁は閉じられたままだった。
『完全に閉じ込められてる…』
「ここまでかよ!」
上鳴くんがそう嘆いた時、緑谷くんが何かに気づいた。
「メリッサさん、あの天井、扉みたいなものが見えませんか?あそこ」
そう言って指を指す先には、小さなハッチがあった。
「日照システムのメンテナンスルーム…」
「!あの構造なら、非常用のはしごがあるのでは?」
「確かに手動式のがあるけど、中からしか開けることは出来ないわ……」
そう悔しそうに漏らすメリッサさんに、百へと目線を渡せば、バッチリと目が合った。
『…いけそう?』
「勿論ですわ」
「へ?何だよ?」
「まだ可能性はありますわ」
百が胸元から創造で小型爆弾を取り出せば、ハッチに向かって投げつけた。
すると、くっついた爆弾が爆発し、蓋が外れて狭いダクトが姿を現した。
「通風口の隙間から外に出て、外壁を伝って上の階に…」
「そうか!上にも同じものがあれば!」
「中に入れるわ!」
「狭い通風口に入れて、外壁を伝っていくには……」
『…小柄で、尚且つ"外壁を伝うことのできる"個性を持つ人……』
メリッサさん以外の視線が、とある人物へと向いた。
え?と顔を引き攣らせながら、後ずさる彼……基、峰田くんは目に涙を溜め始める。
「も、もしかしてオイラが…!?」
「お願い、峰田くん!」
「あんたにしか出来ないんだよ!」
『皆のためにも!』
そう私達でお願いするも、バカバカ!ここ何階だと思ってんだよ!と、抗議の声を上げる峰田くん。
そんな彼に上鳴くんが近づいた。
「みんなを救けた功労者になったら、インタビューとかされたりして女子に大人気間違いなしだぞ!」
ニッと笑う上鳴くんに、うっ…と迷い出した峰田くん。そして、畳み掛けるように、お茶子ちゃんと響香と、お願い!!と言えば、更に上鳴くんが、ハーレム、ハーレム!と囁いた。
「……わーったよ、行けばいいんだろ、行けば!!」
半ば投げやりの峰田くんに、ありがとう!と伝え、通風口へと入ってく姿を見送る。
「大丈夫かな峰田…」
『まぁ…いざって時はやってくれるでしょ…多分……』
一抹の不安を抱えつつも、暫くすると階段が降りてきた。
「!やった!上手く行ったんだ!」
「早く登ろう!!」
階段を登って行けば、峰田くんが誇らしげな態度で待っていた。
「さあさあさあ、オイラを褒め称えよ!女子だけでいいぞ、女子だけで!」
そう言う峰田くんに、最後に階段を登ってきたメリッサさんが、にこっと柔らかい笑みで峰田くんに言った。
「すごいわ、峰田くん。さすがヒーロー候補生ね!」
「……!!」
そう言われた峰田くんは、ぽぉっと頬を赤らめると、声を張り上げた。
「お前ら、気合い入れて行くぞ!!」
「「おー!!」」
…なんだこのやり取り。ちょっと可愛い。
なんて、クスリと笑いを零していれば、上鳴くんと目が合った。
『?どうかした?』
「いや?轟と離れて不安がってんじゃねえかなって思ったけど、もしかしてそうでもねえ?」
煽ってるようなその口振りに、んー。と少し考えてから、返事をする。
『…信じてるから、轟くんのこと』
「!」
『勿論、勝己くんと切島くんもだけどね』
「…魔性だ……」
『えっ、なんで?』
と、その会話を聞いていた響香やお茶子ちゃんに肩をポンと叩かれた。
「…無自覚天使…」
「ずるい…男子がずるい…!!」
『え?は?ちょ、待って?意味わかんないんだけど!?』
「君たち!急ぐぞ!!」
飯田くんのその一言に、私達は再び走り出した。