2人の英雄
□第4話
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会場近くの階まで来てみれば、案の定誰もいないフロア。
…逆に気持ち悪いな……。
すると、轟くんも気づいたのか、隣でぽつりと呟いた。
「…こんなにも人が居ねえもんなのか?」
『…わからない。全員が会場へ入ってるのならそうかもしれない。でも、警備員の1人も居ないなんて…』
「あぁ…何かがおかしい…」
暫く歩き、途中で道が別れていた。
「あそこ!左に曲がったら会場へと繋がる道だわ」
「よし、なら急いで…『待って』
『…2人…或いは3人くらいで行こう』
「な、何故だ?!」
『明らかにおかしい。ここに来るまでに、パーティーの警備員か、この施設の警備員の1人くらいには会うはずなのに、誰ともすれ違わなかった』
「で、でもよ、システムでどこもかしこも強制的に封鎖されてんだろ?」
『それでも、全員が全員、どこかの部屋にいると思う?会場内と外、どっちにも絶対に警備員は居るはずだよ』
そう言えば、うっ…と言葉を詰まらせた峰田くん。
「…どうする」
『…とりあえずオールマイトと合流するために、行く。
でも、響香と私だけ』
「「えっ!?」」
「う、ウチは構わないけど…」
『"もしも"何かがあった時、コスチュームじゃない響香1人じゃ、対処しきれないかもしれない。だから、私もついていく』
「待って!なら僕も行く!!」
そう言って出てきたのは緑谷くんだった。
「2人だけじゃ、"もしも"の時危ないと思うんだ。それに女の子だし…。せめて3人の方がいいんじゃないかって…」
『わかった。なら、3人で行こう』
「おい、待て。舞、お前は残れ、俺が行く」
『ダメ』
「何があんのかわかんねえだろ、だったら俺が行く」
『ヤダ』
お互い譲らないまま、じっと目を見合う。
あまりの迫力に、ふぅ…と1つ息を吐いて、目を逸らした。
『…ごめん、轟くん。ハッキリ言っちゃうけど…
多分、"もしも"の状況で機転が利くのは私だと思う』
「…あ?」
明らかに眉を顰める轟くん。
「お、おい嘉風!お前何言って…」
『クラス屈指の実力者の轟くんが出るのも、間違いじゃないと思うんだ。私よりも実力は上だし。
でも、何かあった時、この狭い空間の中で、なるべく大きな被害を出さず、且つ響香や緑谷くんと共闘出来るのは、多分、私の個性…だとも思う』
「……」
『気を悪くさせたならごめん。心配してくれるのもわかる。でも絶対大丈夫。
それに、まだ何かあるって決まったわけじゃなくて、あくまで可能性の話だから…。いざって時、轟くんは、より多くの人が居るところで、皆を護るためにその個性を使うべき、だと思う…』
徐々に小さくなる声と俯く顔。静まり返り、重い空気になってしまった。
言ったあとで、自分でも何を言ってるんだ、と唇を噛んだ。
「…緑谷、耳郎」
「えっ、な、なに?」
「舞を頼む」
「「!!」」
「え?!と、轟くん!?」
「無茶したらすぐに引っ込めてくれ」
『しないよ!』
すぐにそう反論するも、多分…と小声で付け足せば、轟くんは、ふっと笑って、頭を撫でる。
「怪我すんなよ」
『…うん』
そう言って私たちは二手に別れた。
* * *
恐ろしく天然な2人の先程のやり取りは、まるで周りなど知らないかのような、そんな雰囲気を出していた。
「(聞いてるこっちが恥ずいわ…!)」
珍しく饒舌に喋るな、と思えば結局は轟が心配で、轟も舞が心配で…という…。
…もう、惚気だった、完全に。
「…ねぇ、舞」
『ん?なに?』
「さっさとくっついたら?」
『?何が?』
「轟と」
そう言えば、ボボボ!と赤くなる顔。
…こんな反応をするってことは、"好き"と言ってるようなもんじゃん。
「なんですぐに"うん"て言わなかったの?」
『ちょ、ちょっと!緑谷くんも居るのに、やめてよ』
「えっ?!あ、いや、僕は、その……」
「緑谷も思わない?」
「えと…なんて言うか…轟くんは、嘉風さんのことすごく大事に思ってるみたい、だから…僕は本人達のタイミングでいいんじゃないかなって…」
『そう!タイミング!
…まだ、今はダメなんだ』
そう言った時、舞の瞳に影が差した。
どこか、何かを見据えるような、少し憂いを帯びているような。
そんな瞳をしていた。
『…あ、ほらもう見えてきそう。明るいよ、あそこ』
「あ、ほんとだ」
「…舞はさ…」
『?』
「…いや、何でもない」
いつもこうだ。何かを抱えてるのはわかるのに、1歩踏み出せないのは、自分自身だ。
舞自身も、どこか線引きしているようにも思えるけど、それだけじゃない。
「(…もう、結構仲良くなれたと思ったんだけどな……)」
ふぅ…と小さく息を吐いて、前を歩く舞の後ろ姿をじっと見ているしかなかった。