恐怖映画

□水面下の人魚つかむ
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あの日からなまえとクリスタルレイクで一緒に住むようになった。
あんなに僕のことを怖がったのに、一緒に住むのを許してくれるのは、僕に対する罪滅ぼしや申し訳なさなのかもしれない。でもごめんね、僕あまりに嬉しすぎて一緒に暮らさなくてもいいよなんて言えない。

あと、ひとつ気づいたことがある。
なまえは足が不自由だということ。歩けないほどではないけれど、走ったり長時間歩いたりする事はできないらしい。
だから僕が見つめていた時はいつも湖のそばで座っていたり歩くところをあまり見かけなかったんだ。

なんでか聞いてみるとちょっと寂しそうな顔をして話してくれた。

『昔、泳ぐのが大好きでよくここにも泳ぎの練習に来てたの。でも大会を控えた前日に海でクラゲ足をにやられちゃってね、後遺症が残ったみたいなの。
完全に歩けなくならないだけ幸運だね。』

そうっと見せてくれた足にはギプスが巻かれていた。痛々しいあざのあとが見えるとが胸を締め付ける。
「(今は…痛い?)」
『ううん。たまにちょっと疼くかな。』

ギプスの上からでもわかる。きっと前まではとても綺麗な足だったはず。なまえの足を台無しにしたくらげさんを串刺しにしてバーベーキューにしてやりたいよ。
無意識に僕はなまえを持ち上げた。

『わ、ちょっ』
「(おさんぽ。行こうか。)」

あわあわしてるなまえ(すごくかわいいなぁ)を気にせず湖の畔まで進むと、水面の側で胡座をかいて座り、その間になまえをすっぽり座らせると、
その体の小ささがよくわかる。

『あの…えっ?』
「(ぼくが支えていれば、くらげさんなんて来ないし、大丈夫だよ。)」

だから好きに泳いでいいよって言うと、なまえのガラスみたいにきれいな瞳がまんまるになる。
そのままギプスを外して、つま先を水面につけてパチャパチャと跳ねたりして、だんだん楽しくなったみたいでそのまま足を入れてゆらゆら、ゆらゆら、人魚みたいに動かして笑うなまえを見て、僕も嬉しくなってマスクの奥で笑う。

「(ぼくはお水が怖いから、なまえはすごいね。)」
『ジェイソン…ありがとう。水に触れるなんてすごく久しぶりな感じがする。』

そう言うとぼくの方を向いて手を握ってくれた。わっ、わっ、どきどきする!

『ごめんね、ごめんねジェイソン。あんなひどい事言って。こんなに優しいあなたに、酷いことを言ってしまって。』

ううん、なまえが謝る必要は無いんだよ。僕はなまえを怖がらせちゃったんだから、なまえのはんのうは正しいんだよ。

『だから、これからはそばにいさせて欲しいの。あなたの寂しかった時間を埋めさせてほしい。
これからは、私が貴方が泳げるように手伝ってあげる。ね?約束するよ。』
「(ありがとうなまえ。僕頑張るね。)」

君がいるだけでいい、君がそばにいるだけでいいのに、僕のために約束をしてくれる人がいるなんて。僕は今までの分のしあわせを全部つかっちゃったのかもって思うくらい幸せ者だよ。



水面下の人魚つかむ
【「(よ、よくかんがえたらぼく、なまえのことおひめさまだっこしてっ!いまととと、隣になまえが、あああああっ)」
『先ずはお風呂からやってみようかな?』】


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