恐怖映画

□お料理マジック
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『こんなまずいの食べたことないわ…』
「うあっ…(ええっ…」

テキサス州でソーヤー家に半ば強引ではあるが、同居してきた私。田舎ではあるが生活の不自由は特にない。あの下品な叔父共とある事を除いては…

『精肉店で働いてた癖にまともな料理もできないの?』
目の前にはこんがりと焼かれたステーキと肉汁と玉ねぎで作ったソースがある。見た目は申し分ない。問題は味だ。
臭みが強く、固く噛みきれないしこのソースも不味くなければ美味いともなんとも言えない。全体的に微妙。

以前調べてみれば、人肉はラム肉に似ているらしくクセが強いと聞いた。食人鬼の証言記録を見て調べた。ババちゃんは、いやこのソーヤー家はこんなものを食べていたのだろうか。

同居するのだからババちゃんの事をよく知りたくて「食べてみたい」と言ったのは私だけれど、もうこれ以上胃に入れたいとは思えない。
でも大体どんな味の肉か、どう対処すればいいかは大体分かった。

『ババちゃん。ここってスパイスとかある?』
「う"〜!(あるよ!)」
慌てて立ち上がるとババちゃんは私の手を引いてキッチンの左上の棚を開けてスパイスの箱を出してくれた。

カルダモン、ナツメグ、シナモンやペッパー臭み取りに必要なものは基本しっかりと備えられていた。

『お肉はまだある?』
「う?あ"〜(え?あるけど…)」
『晩ご飯は私に作らせて貰うわよ。ビーフシチューでいいわよね?』
そう言うとババちゃんは目を見開いて固まってしまったので『何?ダメだった?』と聞くとブンブンと顔を横に振った。そして冷蔵庫とかを開けてここには小麦粉、ここは卵などいろんな場所を教えてくれた。
あと上から新品のエプロンも貸してくれた。




ブレンドしたスパイスと蜂蜜に漬けたお肉を野菜とルーの鍋に入れてじっくり柔らかくなるまで煮込む。
まさか自分が人肉をシチューにする事があるとは思わなかった。ババちゃんが私が怖がらないようにそれらしい(人間だと分かるような)形の肉を除いてくれたおかげもある。
平然と調理できる自分はこのテキサスの暑さにやられたのかとうとうイカれたのかもしれないとなまえは思いながらレタスを洗う。

そのキッチンの扉の外でババ・ソーヤーは心配半分嬉しさ半分でなまえのエプロン姿を纏った後ろ姿を見た。

いつものツインテールを一つにまとめて、母のお下がりのエプロンをつけているなまえはまるで新妻のようで新鮮で可愛らしいと思う。

すると後ろから兄達が顔を覗く。
「なんだなんだあ?今日はあの小娘が作ってんのか?」
「いい匂いだなぁ、やっぱ女が作る姿はいいぜ。ババお前も隅に置けねえじゃねえか。」
「う"〜(そ、そんなのじゃないよ…)」

からかってくる兄達にたじろいでいると、この騒ぎに聞きつけたなまえが振り向いた。

『ババちゃん、突っ立ってる暇があるならちょっと味見してちょうだいよ。』

「え?僕でいいの?」と自分に指を指すと『あんたしかいないでしょ?』と手招きされた。
それがすごく嬉しくて、悔しそうに不貞腐れる兄さん達を気にもとめず足早になまえの元に行く。

『熱いから気をつけて』
味見皿に一口分掬ってふーふーすると『はい、あーんして』と渡してくるから、わわわ、すごく恥ずかしいけ、ど嬉しいから僕は一口食べてみる。

とろとろとお口の中でとろけて、ソースがからんで感動的に美味しかった!自分が今まで食べてきたのはなんだったんだろう…!
身振り手振りでその感動を伝えるとくすくす笑って『大げさね』って、大げさなんかじゃないよ!すごく美味しいよ!ってそう伝えると
『ありがとう、お皿並べて置いて』って素っ気ない。

でも僕ちゃんとわかってる。それはなまえの照れ隠しだよね!だってお耳まで真っ赤っかなんだもの。でもそれを言っちゃうと前みたいにお腹叩かれちゃうから心の中に仕舞っておく。



「ひやぁ!こいつは美味いぜ!なかなかやるじゃねぇかなまえ!ヒャヒャッ」
「こんな美味いの今まで喰ったことねぇ!こりゃいい奥さんになれるぜ、なぁババ!」
「うう〜(うん!すごく美味しい!)」
『あら嬉しいこと言ってくれるじゃない。』

食卓に並べられたご飯は当然美味しかった。

『今度からは私が料理を作るわ。』
毎日アレだけじゃ体に悪いしねと言うなまえ。そんなに不味かったのかなあ…、僕達は美味しいと思うんだけれど、なまえはグルメな舌なんでね、とぺろっと赤い舌を出して笑っていた。
胸がきゅんとするって本当にあるんだね。


お料理マジック
【『ん?ババちゃん固まってどうしたの?』
「ゔぁ!?あうう〜!(えっ!?ごめん!これも美味しいね)」
『シーザーサラダだよ。いっぱい食べてね』】


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