恐怖映画

□さみしんぼう怪物と馴れ初め
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『あ、ああ…っ』
「(!?)」

どうしようどうしようどうしようどうしよう!

ずっとずっと大好きだったあの子に人を殺してる所をみられた!

13日の金曜日、つまり僕の仕事の日だ。キャンプ場に侵入してきて、挙句にふしだらな事に及ぼうとしたりする不純な奴らをいつもの通り殺したまではいいんだ。
ただまさかあの子がクローゼットの角に隠れて居ただなんて!
他の逃げてた奴らに気を取られてまさか彼女、なまえの目の前で人を殺す自分の姿を見せてしまったのだ。

なまえはあまりの出来事に顔をひきつらせ、恐怖のあまり喉から出るいつもの愛らしい声が、今じゃひゅっと息を引きながら壊れたブリキ人形のように「あ」を繰り返して言葉にすらなれていなかった。


なまえはぼくがクマさんを失くしてキャンプ場の周りを探し回っていた時、湖の畔で見かけたんだ。
なまえの手にはクマさんが握られていて、今すぐにでも殺そうとしたけどその気持ちもすぐに消えた。

『あら、クマさんどうしてこんな所に?誰か子供が落としたのかしら…
かわいそうに、手がちぎれちゃって綿が出来てる。私が今直すからね。』

そうすると彼女は徐にカバンからケースを取り出すと、針と糸で綺麗にクマさんのおててを直してくれた。
それだけじゃなくて埃や土汚れを払うと、自分の髪についてるリボンを外してクマさんの首にちょうちょ結びしてベンチに置いてくれたんだ。

その後彼女の仲間みたいな奴らが「なまえ!」とあの子を呼んだ。なまえって言うんだ…かわいい名前だね。

それからひとめぼれしたんだ。あの子はとても優しくて可愛くて美しくて、あの子ならきっとママのような愛情をくれる。
あの子は聖地を荒らす奴らとは違う。そしてこんな姿の僕とも違う。

僕の姿を見たら怖がるって分かってるから、彼女がここに来る時影から見守るんだ。それだけですごく幸せな気持ちになるんだ。
あの子の鼻歌交じりの声とか、冷たい水辺に触れてはしゃぐ笑顔とか見ると心がぽかぽかするんだ。

見つめてるだけでいい、それ以外のわがままなんて望まないから。
それなのに、よりによって初めて見られたのがこんな状況なんて…!

「(なまえ…あ、あの、ぼくキミのこと…)」

怖がらせる気はなかったと伝えようと鉈を落とした右手を上げると、ヒッ!となまえは後ずさりした。

『こ、殺さないで…!やだ!』

カタカタと震えて、固くつむったなまえの瞼から涙がぽろぽろしてるから、ぼくはとても焦った。

「(違うよ…!ぼく、キミのこと傷つけないから…)」
『いやぁ!!!近づかないでこのバケモノ!!あ、あなたなんか…っ大嫌いよ!』

殺されたのは地面に転がってる奴らなのに、まるで鉈で貫かれたようにぼくの心臓かズキズキ苦しい。
大好きなあの子に、ずっと見つめてたなまえの完全な拒否と悲しい言葉に胸が締め付けられたジェイソンは気がついたらぽろぽろとホッケーマスクの上や隙間から涙があふれて止まらなくなった。

「(わぁああああん…っ!)」
『えっ…』

戸惑うなまえの目の前で、ホッケーマスクの殺人鬼は崩れるように倒れ込むと子供のように大泣きしたのを見て驚いた。

「(やだやだやだやだなまえ嫌わないでぇぇぇ!!!逃げないでぇぇぇぇっ…
ぼ、ぼくキミのこと、きずつけないよっ…スキなんだぁっ)」

嗚咽混じりの突然の告白になまえは怯えてたのが嘘のように唖然と固まってしまった。
自分の友人(まぁ気の合程の人ではなかったが)を殺されたのだ、自分は被害者なのに、そんな自分より加害者の彼が何倍も傷ついている様に驚愕した。
彼はたいすきなんだ、逃げないで、そばにいて、と繰り返し泣きついてくるのを見てるとだんだん申し訳なくなってきた。

「(も、もうっ、近づかないから…めいわくかけないから…き、き、キライとかっ…ひっく、いわない、でっ…!)」

その姿は叱られた子供がすがりつくように見えて(こんな大男が子供に見えるなんて、私どうかしてる)。気がついたら恐れなんて消えちゃって、ホッケーマスクの男の頭部を撫でた。

そう言えば、このクリスタルレイクの都市伝説があったなぁ…殺人鬼が出る噂。確かその名前って…

『ジェ、ジェイソン…』

名前を呼んでみると、びくりと肩を震わせた彼は、マスクの奥の目を見開いて私を見つめる。
どうやら正解らしい。

『酷いこと言ってごめんなさい…言いすぎたわ。だから泣かないで?』

そう言うと即座に彼の両腕が腰に回って、お腹に顔を埋める様にして泣きついてきたジェイソンに、もう恐怖なんてなくなった。


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