ジョジョ長編

□肉じゃがと具沢山の味噌汁と白米
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承太郎は新たに問題を抱えていた、それというのも3日前名無しさんという日系アメリカ人の少女に出会い、
おこがましくも弁当を少しお裾分けして貰った上、強引ながら2人で時間が合えば日本食を食べようという謎の約束を取り付けることに成功した。
これで承太郎のホームならぬフードシックも少しは収まるだろう。

しかしながら、承太郎が頭を悩ませているのはそのきっかけを作った弁当のことである。

(あのだし巻き玉子が美味すぎたせいで…以前より余計に他の食いもんじゃ満足できなくなっちまった…)

「よーぅジョータロー!これからアリシアの家でホームパーティをするんだけどよ!ジョータローも一緒に行くかぁ?」

講習仲間のトッドが承太郎の肩を掴んで話しかけるが、今の承太郎にはトッドの姿も声も頭に入ってこなかった。

(今まで食べなさすぎたのもあるだろうが…あの出汁の具合とか、焼き加減とか最高だった…金平ごぼうも食感と味付けがよかったな…ごま油の隠し味が特に……)

「つーか正直なところ、女共は皆お前目当てなんだよなぁ」

(まずい…………これは覚醒剤よりもタチ悪いぜ。先日は押し付けがましくなっちまったから自分で約束しておいて未だに飯を誘えねぇ…)

「おーい?ジョータロー?」

トッドは承太郎の顔の前で手を振りながら廊下を見ると、ある少女を目にとめた。

「おいジョータロー!」

承太郎はトッドのしつこさに「なんだ?」と眉間に深く皺を寄せて不機嫌に顔を上げる。

「あれ、昨日お前が話してた子だよな?」

「何……?」

トッドの指差す方には今まさに承太郎が頭で思い焦がれていた名無しさんの姿があった。
瞬時に席を外し驚くトッドを無視して教室を抜け出し、中庭にいる名無しさんの元に駆け寄る。

「名無しさん…!」

『あれ?承太郎さんこんにちは。』

「あぁ…」

承太郎は声をかけたはいいものの、何を話せばいいのか悩んでいる。

『承太郎さんどうかしました?』

「いや…どうもしねぇが…その…」

承太郎が口ごもっていると、名無しさんはあることを思い出したようにあぁ!と声を上げる。

『そう言えば、今日実家の差し入れが余ったから味噌汁を作るつもりなんです。良かったら食べに来ますか?』

「…いいのか…!?」

『大丈夫ですよ、承太郎さんがよければ』
「全然大丈夫だ、何一つ問題は無い。今日は完全フリーだ」

『あ、あぁそうですか…』

名無しさんは露骨な承太郎の態度に若干苦笑いを浮かべた。




大学の最寄り駅から徒歩10分、人混みから離れた静かな並木道に佇むレンガ造りのアパートが名無しさんの自宅である。

一人暮らしにしては余裕のある1LDK、オフホワイトを基調にした部屋にアロマキャンドルやランプが飾られている。ベランダに可愛らしいブリキポットに三つ葉やミニトマトを栽培してある。

円形の和風な写真立てに日本の写真が飾られていたり、何か勉強中なのだろう棚の上に専門書のようなものが並べられているのを見るとシンプルながらこだわりのある家らしい。

『アレルギーとか苦手なものって無いですか?』
「全く無い」
『健康体ですね〜じゃあ大丈夫そうですね。』

今更だが、男を家にあげても良いものなのか疑問が頭に浮かんだが、そんな事を言って自身の首を絞めるような無粋な真似はしたくなかったので頭の片隅に留めてとく。

名無しさんは髪を人束に結い上げ、エプロンを腰に巻くと冷蔵庫から野菜を取り出す。承太郎は手伝うと言って聞かないので言葉に甘えて野菜を洗ってもらう間に名無しさんは鍋の蓋を開ける。
中には一晩寝かせられた昆布が水に浸されており、名無しさんは中火で火にかけると沸騰する直前に昆布を取り出し、差し水をして鰹節をふわりとかける。

「出汁から作るのか…大変だな。」

『確かに市販も楽だけど、やっぱり手作りかなって。
これだけでも立派な一番だしです。』

煮立ったらすぐに火を止め、沈んできた鰹節をキッチンペーパーの敷いた網ですくい上げ『ちょっともーらい』と2番だし用と、味見皿に少し取り出す。
『味見いかがですか〜?』

「頂くぜ」

味付けなしでもカツオと昆布の風味が鼻腔を突き抜けて、淀みのない澄んだ旨みが心地いい。
胃がリラックスしていくのが分かる。

『どうですか?』
「完璧だぜ」
『良かった!じゃあ2番だしを作って、それで肉じゃが作りましょうか。』
「!」

承太郎は表情に出さないが、無意識にスタープラチナを出してオラァァァ!!!と歓喜の雄叫びをあげていた。

白米を洗い、とぎ汁を残してから土鍋を取り出し、白米に水を張って少し吸水させる。

六方剥きした里芋を塩でぬめりを落とし、とぎ汁で茹でる。その間にごぼう、人参、大根、さやいんげん、厚揚げなどの具材を先程の一番だしで茹でる。

『とぎ汁で茹でるとホクホクと柔らかくなるんですよ』

「名無しさんは料理の経験があるのか?」

『実家でもよく料理をしてましたね。最近栄養士の勉強もしてますよ。』

「通りで博識なわけだな」

(成程、先程見かけた本棚の専門書は栄養学って所だな…)

フライパンにサラダ油を熱し、牛肉を炒める。承太郎は茹で上がった里芋をザルにあげながらその香りに胸を踊らせた。

『やっぱ味噌汁は具沢山ですね〜』

「…味噌汁が具沢山?」

『そうですよ?具材ごろごろの味噌汁と白米って最高じゃないですか!』

「俺の時は大概あさり汁だぜ」

『承太郎さんやっぱどこぞのお偉いさんとかじゃないんですか?』

「ただのハーフだぜ」

『ほんとかなぁ〜?』

フライパンに玉ねぎ、人参、糸こんにゃく、じゃがいもなどを入れ、調味料と2番出しで味付けする。名無しさんはグリーンピースよりさやいんげん派らしい。
鍋に里芋と味噌を濾し入れてひと煮立ちさせたら完成だ。

土鍋を開けると立ちこもる湯気と共に炊き上がった光り輝く白米が現れ、承太郎は無意識に唾を飲み込んだ。

『わぁ〜!見事におコメが立ってますね。ほら、おこげもいい感じです。』

「まさかまたこの姿をお目にかかれるとはな…」

『カルチャーショックそんなに酷かったんですか?今日は沢山食べてくださいね。』

食卓に料理を運ぶ。味噌汁と白米(承太郎には山盛りに)てりつやとしたほくほく甘めの肉じゃがと、前回のあまりのきんぴらごぼうと大根の柚子風味漬け、冷やした麦茶を食卓に並べる。

承太郎はこれだけで堪らないと感動で目眩すら覚えた。

『いただきます』
「いただきます」

先ずは味噌汁、鰹だしに味噌汁と溶け込んだ野菜の旨みと温かさがじんわりと体に流れ込む。
コリコリのごぼうにほっくりとした里芋、ジューシーな厚揚げを頬張ると自然と表情筋が和らぐ。

(あぁ確かに…具沢山良いな…)

『七味ありますよ』

承太郎は七味をありがたく受け取り、味噌汁にかける。このぴりっとした刺激が旨みを引き立たせている。

このひと品が五臓六腑に染み渡る。

「うめぇ…」

『へへっ、よかった』

甘めに煮込まれた肉じゃがは調味料が牛肉やじゃがいもなどの具材に染み込んで噛むほど味が出る。
ホクホクの肉じゃがは熱めで、はくはくと口を動かしながら食べる。

もっちりとコシのある米を口に運ぶと最早承太郎は止まらない。
副菜の漬物のあっさりとした味とカリコリの食感がまた食欲が増す。

名無しさんは承太郎が何も言わずとも、美味しそうに頬張る様子を見るだけで作ってよかったと心から喜んで味噌汁に手をつける。

承太郎も余計な詮索もしない名無しさんに気を使うこともなく食事を進めることが出来た。
母親以外にこんなにそばにいて心の安らぐ女性は初めてだった。

「最高だぜ、毎日でも食いてぇな…」
『うへへへ…照れちゃいますなぁ〜』
「俺はマジだぜ。この間のだし巻き玉子もそうだが、料理の才能が素晴らしい。」
『ひぇ〜お嫁に行けちゃう』

はにかむ名無しさんの柔らかい笑顔に承太郎は胸がきゅんと高鳴った。

(何だが安上がりみてぇだが、こういう女と結婚してぇな…)

『あ、じゃあ私は承太郎さんのコックさん見たいですね〜』

「…………惚れちまったぜ」

『相当日本食がお好きなんですね』


余った肉じゃがは漬物と一緒にタッパーに、味噌汁は水筒で頂いた承太郎だった。


【承太郎の胃袋とハートキャッチした名無しさんちゃんでした。】


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