恐怖映画

□ファーストレディー
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「明日が楽しみだなぁ、つい前までこんなにちまっこいプリンセスだったのによ」
『そんなに小さかったかな?』

そう言ってフレディさんは鉤爪のない方の左手で自分の膝あたりまで手を置いて昔の私の身長を推測している。

小さい子供、特に女の子が大好きで、ティーンエイジャーが大嫌いのペドフィリアのロリコンな癖に、何故私の成長になると自分の事のように喜んでるのだろうか。

明日は私の18歳の成人式だ。

家族や友人に両手に溢れるほどのプレゼントや祝福のメッセージをもらって、

毎日お洒落な食事が食卓に並ぶ。

クラスメイトの男子達に成人式のエスコートを頼まれた。

今朝なんて、リビングに行ったら宝石をひっくり返したようなキラキラ上品なドレスが用意されていた。

でも私はあまり嬉しくなかった。

「お前の親御さんが選んだドレスも、大人の女みたいでいいな。」
『そうかな?』

「最近じゃワインも飲んでるんだろ?大人になるんだし、嗜む程度にはいい勉強になるな。」
『苦いけどね。』

「メイクもセクシーなのに変わったしな。なまえの顔ならモデルのやり方でも合うだろうな。」
『毎日ケアをするのが大変だけどね』

「何だよ、せっかく成人式すんのに嫌そうだな?何がお困りなんだお嬢さんは。」


当たり前でしょう、だってそこにフレディさんは居ないもの。

シャネルやグッチのアクセサリーも素敵だけど、フレディさんがくれるクマのぬいぐるみの方が好き。

キャビアやフォアグラよりもフレディさんが食べさせてくれるいちごのケーキやチョコのタルトみたいに甘いのがいい。

成熟した身体にしか目がいかない男達より、フレディさんにエスコートしてほしい。

身体にぴったりとしたシルクのドレスより、フリルいっぱいのシフォン生地のドレスがすき。

周りには大人ぶってるけど、所詮私は心が子供【フレディさんにあった頃】のまま、体だけが大人になっただけ。

大人になったら、もうフレディさんは絵本を読んだり、可愛いドレスを着せてくれたり、ケーキの山でティータイムなんてしてくれなくなる。

嫌いよ。フレディさんの好きな子供のままでいられない、私のもののくせに時の流れに逆らえないこんな体。

「楽しみだな。お前はこれから大人の女になって、俺のようなロクでもない男じゃなくて、真面目でお前を幸せにしてくれる男と結婚して、可愛い子供もできる。

お前に似てりゃいいな。釈然としねぇとこもあるけど、お前はそうやって生きていかにゃならない。
もう悪夢から目覚める時だ。」

オリーブ色の瞳を細めて、ケロイドの右手で私の頭をくしゃくしゃ撫でるフレディさんはどこか切なげで、なのに心底嬉しそうだった。

『フレディさんは、本当にそれが私の幸せだと思うの?』

少し悔しげに見つめるとフレディさんはきゅ、と口を結んでから、いつもより優しげな笑顔を見せて、あぁ。と答える。



「じゃあな。」

ぱっと私の頭から手を離して、いつものように暗闇の奥へ消えようとする。
逃げてしまうその瞬間に、しましまのセーターを指先で捕まえてその帽子を取り上げる。

フレディさんは驚いたのか、目をまんまるにして固まってしまっている。私はこの顔が好きだ。
つま先立ちをして鼻先が擦れ合うほど近寄ると、

幼い頃から胸に秘めた気持ちを打ち明ける。



『行かないでダーリン、ここでキスして。』

【「ばかやろう」って強く抱きしめられた。うん、幸せ。】




《奏音69さんのファーストレディを聞いて、フレディさんで夢主の成人式ネタ》


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