幻想の恋

□第1章
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  第1話

     『好きな人』







新学期―



まだ馴染めない教室のドアを開ける



「ねえ、そこ私の席なんだけど?」



私は机に伏せていた少年に声をかける



「ああ?

…何だ、またお前か」


不機嫌そうに顔を上げる彼―




「またって、あんたが悪いんじゃない」


私も、彼に張り合うように不機嫌な様子を見せた



「可愛いげのない女」


そう言って自分の席に戻る彼。


「謝罪くらいしなよ。一年前と何も変わってないのね。」


「悪かったな。そういうテメエも、何一つ変わってねぇな。」



一年前と同じような会話だった。


こんなのだから、私の彼に対する第一印象は最悪だった。




でも、今は違う。


彼の人格を知ってしまった私は、どうしても彼を嫌いになれなかった。




「朝から頑張ってるのね、海堂君」


眠そうにしている彼に向かって微笑みかけた。



「お前もな」




これだけの会話―




それでも、私を幸せにしてくれるには十分だった。







テニス部の彼は、毎日部活で忙しいようだった。




私は陸上部なので、テニス部の練習はたまに目に入る。




私が海堂薫という人を嫌いになれないのは、彼が努力している姿を知っているからだ。





努力ができる人に、悪い人はいない―




あくまで持論だけど、その通りだと信じている。




「今日も手塚部長と走ってから朝練行ってたのか?」


彼が振り向きもしないで聞いてくる。


「まあね、走るの好きだから」


私も、彼を見ないで答えた。



「ストイックだな」


「君には負ける」



淡々とした会話だけど、それだけで今日も1日頑張れそうな気になってしまうほど、私は彼が好きなんだ。






「真尋!」


外から鳥の鳴くような声が聞こえた。


「おはよう、千鶴」


親友の板垣千鶴だった。


私の親友で―


「…はよ」





恋敵―





それでも、私は彼女を憎めない




「おはよう、薫。
朝練お疲れ様。 真尋もね!」



だって彼女は、こんなにも良い子なんだから―



「おう」



それに私は、彼が彼女に見せる、その表情に惹かれたのだから―




「ありがとう」


複雑な思いで笑う私は滑稽だろうか




「真尋はいつ見ても可愛いね!」


私に抱きついてくる親友に苦笑いする



「性格は姑みたいだけどな」


「余計なお世話」




私がいくら頑張ったところで、彼女には勝てないのだ





だって私の好きなこの人は、私を見ようともしてくれないから―
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