結界師 長編
□自慢の庭で
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廊下に出ると、機嫌を損ねて足早に廊下に出る彼女の後ろ姿をバタバタとあとを追う行正の姿。
「待ってください!葉鳥さん!!」
彼が呼びかけても一向に足は止まらない。
「葉鳥さん!!」
尚も彼女はあるきつづける。
が、ぱたり、と彼女の足が止まった。
急な彼女の変化に戸惑った行正だったが、次に彼女が放った一言で冷静さを取り戻した。
「この戸の先が、自慢の庭、なのだろう?」
折角だ、早く案内しろ。
不機嫌な彼女に要求され、自分が案内する側だったのに客人に案内されるとは…と苦笑を残した。
口・態度が若干、天邪鬼なのだと理解した。
「そうですね…ここが、無道さんご自慢の庭です」
一つ戸を開けて見せると、外の明るさと空気に彼女の顔つきが変わった気がした。
「なんだ…大したことは無いな。」
「はっきりと言いますね」
「ふん」
「確かに、俺も普通の庭だと思ってますよ」
他愛のない回答でさえ、自然な笑顔を添えられれば誰だって嬉しいものだ。
感情の乏しい彼女には、より一層と強く感じられた様だった。
感情の乏しさは、時に無限の感受性を秘めている。