結界師 長編
□訓練と一服
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「え、わ、ちょっと!美砂さんっ!!!」
彼女の、若き教育係に任命されてから一週間がたった。初日のようにぼーっとしている訳にもいかず、彼女と翡葉の訓練(兼教育)は翌日からみっちりと行われた。
互いに、力を使ったところを見られてから入ってきた訳では無いのでどのような能力者かは誰も知らなかった。いい機会だ、と正守たちは傍観していた。
翡葉はしっかりと能力を使うのは今回が初めてらしく、まずは変化する感覚を覚えてから力を制御する練習をするようにさせた。
一方の美砂は力を日常使いしていたらしく、体の一部を部分的に変化させることまで出来ていた。時折、思い出したかのように傍観している正守たちに攻撃を仕掛けていたが…
練習メニューは基礎的な筋力トレーニングから始まり、各々の力を制御するトレーニングをし、組手をし、最後に模擬的に戦闘をするというものだった。
妖混じりの寄生型である翡葉は、体力・筋力ともに妖混じりの統合型である美砂にはどうしても劣ってしまう。
力の強い者に勝つにはどうすればいいのか。それがこれからの課題となるだろう。
そして物語は冒頭に戻る。
「え、わ、ちょっと!美砂さん!?」
ひゅんひゅんと、次々に攻撃が飛んでくる。軽やかな身のこなしからの右側からの打撃攻撃、上下の攻撃に隙を見て入れられる蹴り。
物理的にも精神的にも追い詰められた彼に、逃げ場などない。
ーザスッ
木の幹に背中を当て、首元に変化した白色の彼女の爪が刺さる。
「…遅い」
ここで、今回も彼女の勝利が確定した。
「そこまで。二人ともお疲れ様!」
いつも通りに正守が声をかけ、一時休戦。
「お茶でもどうだい?大福も一緒に」
「ありがとうございます!」
「ほら、美砂も」
湯のみだけを手に取ると
ふい、と顔を背けて恐る恐る湯のみに口をつけた。
どうやら彼女は猫舌らしい。
お手上げ、と言わんばかりに方をすくませて見せた正守に愛想笑いをした翡葉もまた、湯のみに口をつけたのだった。
「そうだ、美砂にはこれあげよう」
「なんだ、これは」
差し出された袋に鼻をひくひくと動かす。
「これはね、ニボシ」
「ニボシ…そんなものは要らない」
「要らない、といいつつも興味津々だね」
そう、彼女は匂いを嗅ぎながらそわそわと正守の周りを回っていた。
「ほら、遠慮せずに。」
「…要らない。毒が入ってそうだ。」
床を蹴って、彼女はどこかへ行ってしまった。
「素直じゃないんだから」
「結構反応してましたね。」
「彼女、妖のベースが虎だから(笑)」
「そうなんですか?」
「虎って結局は猫でしょ?」
「あー…だから、ニボシなんですね」
うん、と頷く正守。この人の事だ、次は猫じゃらしとか持っていくのだろう。
(最終手段はまたたびかな)
不敵に微笑む正守であった。