結界師 長編
□新入り二人
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「翡葉、ちょっといいかな?」
ぼーと考え事をしていると背後から頭領の声がした。
「なんでしょうか?」
ああ、まただ。
つい作り笑いを浮かべてしまう。
「どう?調子は」
「ずいぶんといいですよ」
嘘だ。調子なんて良くも悪くもない。
「そうか。…ところで、この後なんだけど早速任務をお願いしたくてね」
「任務、ですか?」
「昨日説明した通り、ここでは主に妖退治をする任務がほとんどなんだけど、まだ入りたてで力の使い方等訓練が必要だから、今日はお守りをお願いしたいんだ。」
(…お守り?)
そう言った頭領の背後には、一人の少女がいた。
(お守り…というに相応しいのか?ガキでもあるまいし…)
「歳は君の方が一つ上でね、君と同じ新人なんだよ。
特殊な環境で育ってるからちょっと戸惑うところもあるけど、よろしくね!」
そう言って頭領は背に隠れていた彼女を前へと引っ張り出した。
「…正守、誰だ…こいつは」
頭領のことを呼び捨てにするだけで、特殊な、という表現に納得がいった。
「美砂、彼は翡葉。今日一日翡葉のいうことを聞くように。」
頭領がいいきるまえに、彼女は外に飛び出していった。
「美砂!!」
彼女はそっぽを向いている。
え?俺の手に負えるのか…?
「頭領、お時間です。」
「刃鳥…あー…そういう訳だから、よろしく。」
と、頭領は俺にいくらかお金を渡し任務に向かった。
「あのー…美砂さん?」
名前を呼ばれて、彼女はこちらに目を向けた。白い肌に闇を落とした光の無い緑の瞳。サラサラと足の付け根まである長い髪が揺れる。
「…なんだ、男」
「お、とこ……美砂さん、翡葉京一です。」
「なんだ、翡葉京一。」
「俺、昨日入ったばっかりなんです。
何かとよろしくお願いします。…お腹、空きませんか?」
「…」
彼女は元いた木の枝から地面に降り立つと、俺の前まで来て鼻をひくつかせた。
「あの…なにかありましたか?」
「お前は、……いや…いい。」
そう言ってまた枝の上に跳んだ。
…それからどのくらい時が経っただろうか。
彼女は枝から空を眺め続けている。
(…何をしていいかわからないな。)
「美砂さん、俺、お腹空いたんでなにか食べ物買ってきますね!ここから絶対離れないでくださいね。」
視線をちらりとこちらに向けると
また空を眺めた。