逢魔ヶ刻
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時は2✕✕✕年──
娯楽や文明が発達し、生きる上での苦労の無い世界。
その流れ行く時代の中で、人々に紛れる者が在った。
それは神であり、妖であり、魂。人々の間で好まれ、信仰され、畏れられる存在。
──人外、と称される人無き者達が。
炎の様な太陽の色が世界を燃やし、道路に沿って軌跡を描く。地平線に消えて往く恒星は、まるで最期にと己の存在を知らしめるかの様だ。
反対側の空から白い輝きを伴って衛星が姿を見せ始める。空は赤から黒へ。支配者が入れ替わる瞬間だった。
赤い絨毯に彩られた道を歩くのは、同じ服装に身を包んだ少年少女。皆、一つの建物を背に去って往く。
その合間を、これまた同じ服装の少年少女が歩き、建物の中へと入って往く。
真反対の人の流れが起こり乍らも、本流は氾濫の様子も無くスルスルと流れ続ける。
──まるで、その逆流に気付いて居ないかの様に。
「不思議なものよね。此方からは見えているのに彼方からは見えないだなんて」
ふと、逆流の一つが呟いた。
黒い髪に黒いセーラー服、黒い瞳。膝丈の靴下もローファーも黒。全身を黒で包んだ少女だった。
「まるで私達が存在していないみたいで嫌になるわ」
「御言葉ですが」
溜息と共に吐き出した言葉に、新たな声が返って来る。
少女が見上げた隣──正確には斜め後ろ──には、黒い学ランを纏った長身の少年が控えて居た。その右目に携えた医療用の眼帯が、少年を取り巻く空気を異様な物へと変えている。
「我々が『見えていない』のでは無く、『認識していない』だけです。人間は我々の存在を無意識的に意識の外へと外して仕舞う。その程度、既に御存知と許り思って居ましたが」
無表情で宣った少年に、少女の完璧な笑顔がヒクリと引き攣った。
「識っているわよそれ位。人間は畏ろしいモノ程認識しない、でしょう?」
「流石です、姫様」
「……御世辞でももう少し心を込めて云う物よ、流」
『姫様』と呼ばれた少女──名を四ノ宮結という彼女は、自らの従者──三ツ宮流の発言に青筋を浮かべ乍らも、笑顔が崩れぬ様、細心の注意を払いつつ一つの敷地へと足を踏み入れる。
聳え立つは真っ白な建築物。彼女等と同じ服を着た者達が出入りを繰り返すそこは、高校生を相手とした学び舎であった。
──内青学園高校。黒い門が光る塀の隅で、その名が夕陽に煌めいた。
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