恋愛フラグはよそでやれ!

□C
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(たす)かった。そう理解するよりも先に、オレは目の前の光景に釘付けになっていた。
風で揺れる草原に、凛と立つ金色。手にはファンタジーっぽい強そうな剣を持っていて、化け物から流れているものと同じ緑が滴っている。
───あいつが、倒したのか?
半分ぼーっと金髪を見つめる。
と。

目が合った。

まさかこっちを見るなんて思っていなくて、反射的に身を低くして隠れてしまう。ほんと何で隠れたんだ。

ざり。足音。
ざっざっざっ、と、草を蹴る音が近づいてくる。
どうしよう。出るべきか出ぬべきか。ここは潔く出た方がいいのでは。別にやましいことをしたわけじゃないんだし───


「アレク!」


高めの男の声がして、近づいていた足音が止まった。代わりに遠くからいくつかの足音が聞こえてくる。


「……ユーリか」


今度は低い声。ちょい重みがあって、これが金髪の声だと瞬時にわかった。
思ったより遠いところで発せられた事に安堵して、懲りずにもう一度覗き込む。
金髪はもうこっちを見ていなくてホッとしつつ、増えたメンツを確認する。茶髪で中性的な顔の男。多分こっちがユーリって呼ばれた方。あとは寡黙っぽいデカい男が立っている。


「急に駆け出すからびっくりしたよ。一体どうしたのさ、まさかサイクロプス( これ )が目当てとか?」

「いや……」


チラリ。また金髪がこっちを見た事に気づいて、またまた性懲りもなく隠れてしまった。何がしたいんだよオレはああぁぁぁ……!


「……そんなところだ」
「?」
「行くぞ」
「えっ、素材は?」
「いらん」


そう言って、去っていく金髪たち。茶髪が遠くで「じゃあ何で狩ったの? ねえ!」としつこく聞いてて、やがて聞こえなくなった。


「───……はぁ〜〜〜……」


緊張が解けて一気に脱力した。ドっと疲れが襲ってくる。そりゃそうだ、あんだけ全力疾走して疲れない方がおかしい。
……いや、それだけじゃない、か。


「……助かった、んだよな」


怖かった。そんな言葉じゃ生ぬるいくらいの恐怖だった。
肉体よりも精神的摩耗が著しい。死にかけたんだから当たり前だけど。


「……怖かった」


怖かった。本当に。
手を見ればまだ震えてる。恐怖の名残りか生き長らえたことへの感動か、それは分からないけど、カタカタと震えている。


「……死ぬかと、思った」


化け物に追われて。
一度死んだ感覚を知ってるから、なおさら。
そして、


「……殺されるかと、思った」


目に、脳に。
今でも焼き付いて離れない。
キラリと光る刃。
化け物が持っていた斧───じゃない。


「───こわ、かった」


緑を付着させながら日光を反射していた、あの剣。

そうか、だからか。
なんで何回も隠れたのか、やっとわかった。

───オレは、怖かったんだ。

命を簡単に奪えるあの剣が。
化け物を容易く屠ったあの人が。

化け物よりも、怖かった───


「───でも、多分悪い人じゃない……よな」


無意識に腕を強く掴んでいた手を離して、前を向く。
茶髪が化け物を殺した理由をしつこく聞いていたってことは、金髪はそれに答えなかったってことだ。
───オレの存在を、黙っててくれたってことだ。
あの人は、二度も隠れたオレに何を思ったんだろうか。
失礼にも程があるっていうのに、どうして隠しておいてくれるんだろうか。

どれだけ考えても、答えは出ないけど。


「……ま、いいか」


それよりさっさとここを離れないと、化け物の死体に釣られてまた何かしらの化け物が来るかもしれない。
立ち上がって、服についた砂や草を払う。
どうやらここは、いわゆるファンタジー的な世界のようだ。


「……まさか、最近流行りの異世界転生ってやつ?」


……はは、まっさかー。
笑い飛ばして、とりあえず街を目指すことにした。……多分、乾いた笑いだったと思う。


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