□夏の小話
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「京楽、」

焦げ付きそうな日差しを手のひらで避けながら、呑気に外を眺めている背中に声をかけた。
隊主室の東側にある京楽の為に造られた和室は、豪奢な自宅の部屋に比べたら簡易で小さなものだろう。でも、この部屋を何故だか京楽は気に入っているようだ、と副官から聞いた事がある。返事をしない京楽に寝ているのかと疑えば、その左手が風の通り抜ける日陰に置かれた露を纏う切り子の器へと伸ばされた。

「伊勢に怒られても知らないから、」
「…それは嫌だなあ…七緒ちゃん怖いんだよ」
「暑いからってお酒呑んだら余計暑くなるって分かってるでしょう?」
「うん、そうだね」

そう言って、また、喉を潤す。
所詮、どんなに呑んだ所で酒に酔う事など無いのだ。京楽は。
酒を呑む自分の姿に酔い、酒とともにある風情に酔い、女に甘い言葉を紡ぐ。嘘か誠か、誠か嘘か。

「一緒に呑まない?辛口、好きだよね?」
「…」
「怒られるなら一人より二人の方がいいかな、なんて、」
「…春水」
「…何だい?」

滅多に口にしない名前で呼べば、鋭い眼光が射抜く。
先程避けた日差しなど他愛も無いほどの焼け付くその視線に喉が震えた。

「明日からしばらく任務で現世に行くから、」
「…どれくらい?」
「…私が春水を忘れるまで」
「…」
「…」
「僕を捨てるのかい?」
「違う、春水が私を捨てるのよ」

唯一無二になれないのならば、会えない時間の長さで忘れるしかない。
京楽の全てを。

「…駄目だ、許さないよそんな事、」

声と同時に驚く程の強さで捉えられる体が京楽へと向けられ、息を止めてしまうかの如く熱い唇が落とされる。首筋を流れる汗に這う指先に、震えを抑える術などある筈が無かった。








夏を纏う
(狡い男だと泣いたら、私だけのあなたになってくれますか)


京楽春水













本気は一人だけのはずなのに、花から花へとうつろう事をやめられない京楽隊長。大人の男は狡くて、純粋。
彼女は九番隊の上位席官で修兵をかわいがってるといいです。それで京楽隊長がじつはかなり嫉妬しているに違いない(捏造)。

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