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□たとえそれが慰めにならないキスだとしても
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傷の手当てを終えた刹那を部屋まで送りブリッジに戻る通路の途中、開けたスペースに体を漂わせる後ろ姿が見えた。
ニールと同じ髪の色をした、ライル。
いやもしかしたらニールがライルと同じ髪の色だったのかもしれない。
同じようで違う、と、どちらでも良いような事を考える。
自分の正義が他人の正義とは限らない。
それはとても悲しい真実なのだけれど。
そして人は1人では生きて行けない。
自分の半分を探し続ける。
「…ロックオン、」
呼ぶ事を許されたコードネームが乾いた酸素に響いた。
「…」
「…」
「…そうだったな…俺は、」
「…」
「ロックオン・ストラトス…自分の名前を偽って…此処に…いるんだって事、忘れてたぜ…」
(…私には、呼べないだけ、だよ…)
俯き、頬を隠した髪に指を通すと驚いた視線と目が合う。
いつもは高く見上げる青い瞳が目の前にあって、それは、まるで宇宙に浮かぶ地球をはめ込んだように見えた。
ニールとは違う、でも同じ青。
「殺し合いも憎しみも、どんなに願ってもなくならないの、ロックオン、」
「…」
「だから私達は誰かを好きになる…分かり合うために…」
「…分かり合うため…?」
(今は泣いて、遠い思い出になるほど涙が枯れるまで)
「また出会うために、」
「…」
「それが叶わなくても想い続けるの」
(私…あなたの事、)
「少し眠った方がいいよ」
「…そう、だな、」
「さっき刹那を部屋まで連れて行ったみたいにロックオンも連れて行ってあげる」
「…ガキと一緒にすんなよ」
伸ばした手にほんの少し瞳が崩れ、言葉とは反対に縋るように掴まれた指先が震えている。
グローブ越しに伝わる熱は確かな存在を伝えてくるのに。彼の心は此処にいない。
それでも。
私は愛し続ける。
小さな願いを胸に秘め。