Dream

□第五話 別れ
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風の部族を出よう。

前から考えていたことを、いざ形にしてみると今更ながら不安に思った。

働いたことも無ければ、独りきりで生活したことすらない。

何よりも姉様と離れることに、悲しさを感じた。

『平気だ。私は寂しくなんかない。もう決めたことだ』

誰に言うのでもなく、自分自身に言い聞かせる。

呟いた声は微かに震えていて、それがどうしようもなく情けなく思えて、多少の嫌悪感を抱いた。

姉様と離れることは、確かに寂しい。これで一緒にいられるのが最後かと思うと、悲しくなる。本音を言えば、離れたくなんかない。

けれども、私の選んだ選択は最善且つ正しいし答えだ。

風の部族は火の部族に圧力をかけられている。抗争を起こせば、風の部族が勝つかもしれない。ただ問題なのは、私と姉様だ。

私達二人は完全なお荷物状態。食べ物に衣服、住居まで用意してくれて嬉しいが、同時に相当な負担と迷惑をかけているだろう。

私はその負担を半分に減らす。

二人は無理でも、一人なら匿えるかもしれない。

ならば私がいなくなるべきだ。姉様はきっと一人じゃ生きていけない。それに姉様にはハクがいる。ハクも故郷で姉様と平穏無事に暮らせば良い。

それには私は邪魔だ。

だが、私はきっと先に邪魔だと言われるのが怖いだけだ。

フンッと、鼻で嗤った。皮肉げな笑みが口元に浮かぶ。

『……挨拶しないとな』

風の部族にはお世話になった。代表としてムンドク長老に挨拶しに行こう。

思い立ったら吉日。善は急げだ。ムンドク長老の邸へと足を向けた。

引き戸に手をかけ、開けようとして思い止まった。中から声が聴こえたからだ。

当然の事ながら、ムンドク長老の声。それに加えて予想外のハクの声。

この場からでは会話を聞き取るのは難しく、足音を立てぬよう細心の注意を払いながら、こっそりと裏手に移動した。

盗み聞きをしている自覚も、罪悪感もあるが、私の行動を止める要素へとはならなかった。

「スウォンの新王即位を承認してくれ。俺は明朝、風の部族を去る」

それを聞いて、手が勝手に震え出す。温度が奪われるように、手が冷たくなる。

風の部族を護る為には仕方がないのは、頭ではちゃんと理解している。それでも受け入れがたい現実には変わらない。

「“ソン”の名をお返しする」

思ってもいなかったハクの言葉に、声が上がりそうになって、慌てて両手で口を押さえた。

「ヨナ姫と名無しさん姫を城から隠し一生、この風牙の都で風の部族の人間として生かしてやってくれ」

それを聞いて私は素早く立ち去った。

折角挨拶をしようと思ったが、この場で出て行ったら確実に止められる。明日はハクとムンドク様にも見つかってはいけない。難易度が一気に上がった……。

挨拶が出来ないのは、心苦しいが仕方がない。代わりと言っては申し訳ないが、せめて手紙だけでも書いておこう。
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