Dream
□第三話 風牙の都
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「着きましたよ。俺の故郷。風の部族、風牙の都です」
私は姉様を支えて、ハクの後ろを大人しく付いていく。
広がった光景に、目を見開いた。高台から見えた、風牙の都はとても美しかった。今までの疲れが少し飛んだ。矢張城の外には、私の知らない所がいっぱいある!
門の前には、二人の人間がなんとも気持ち良さげに眠っていた。
「見張りはお昼寝の時間かこの部族は」
ドカッと寝ている二人をハクが蹴る。起こすにしたって、やり方を少しは考えないのか、こいつは。
「ハク様?」
「へー、久しぶりー。10年ぶり?何でいんの?」
「将軍クビになったの?明日があるさ」
「3年ぶりだ。相変わらずユルいな」
いつの間にか寄ってきた女性達。城でも人気だったが、故郷でも人気なのか。巻き込まれる前に逃げよう。
私は姉様と離れて、集団から退いて一人ポツンと立っていた。
姉様なら、ハクに任せた方が何かと安全だ。
ハクは何処に行っても、多くの人に好かれる。姉様も大概の人達には好かれる。
そういう人間は好かれない人間の気持ちが解らない。
ハクは姉様の気持ちが解っても、私の気持ちは解らない。
姉様はハクの気持ちが解っても、私の気持ちは解らない。
たまに。極たまに。二人を見ていると惨めになる。姉様と私は姉妹なのに、何故こうも正反対の性格をしているのか。
まだ日が浅いとはいえ、城にいた頃よりも孤独を感じる。
私はまた溜息を付いた。
「誰?この娘」
「ハク様の女?」
おい。待て。この部族は口の聞き方を知らんのか?
姉様が誰か分からないなど、本当に高華王国の人間か!恥を知れ!無礼者!
「違う。城の見習い女官だ」
『えっ!』
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
姉様を。姉様を。姫君ともおろうヨナ姉様を…………女官?!
あの男。まさかとは思うが、姉様に仕事させるつもりでは有るまいな?
ふざけるな!
取り敢えず、もしも姉様に仕事が押し付けられたら、私が全て代わろう。でないと倒れてしまう。
『あっ!姉様!』
ハクに対する怒りと、これからの事を考えていて気付かなかった。姉様がグラリと揺れて、まずい!と思ったときには倒れていた。
急いで姉様を抱き起こそうとしたのだが、なにせこの人の量だ。上手く前に出ていけない。
そうしている間に、ハクが姉様を横抱きにして抱えあげた。
だから何でお前は!
横抱きにするなんて、尚更誤解を招くだろうが!お前は良いかもしれないが、姉様が確実に困る。
思わず舌打ちが出る。
あんの馬鹿者!と怒鳴りたくなった。
「で?貴方はハク様の何?」
『え…………』
お姉様方に囲まれた私。
笑顔のお姉様方。
そして笑顔は威圧的。
私とハクの関係?そんなの決まっているじゃないか。
『私とハク様は、ただの知人です。城で見習い女官を姉様と一緒にやっていました』
そう、ただの知人である。それが一番面倒ではない。
ハクをハク様と言わなければいけなかったことに、若干腹を立てた。
ハクのせいで、私が迷惑を被るのだけは御免だ。
だが、流石私だ。言葉遣いは完璧だな。
『私はサキといいます。少しの間、お世話になると思いますので、至らないところも多いですが、宜しくお願いします』
「じゃあ、貴方はこっち来て。洗濯物を手伝ってちょうだい」
小太り気味のおばさんに連れられて、大量の洗濯物をする羽目になった。
一寸待ってくれ。姉様より体力は有ると云えど、慣れない山道を歩いてきたんだぞ!?先に少し休憩させてくれ。
…………なんて事は、図々しくて言えない。だから素直に洗濯に専念した。