Dream

□第一話 誕生会
1ページ/3ページ


ここは高華王国。

当時王の他には世継ぎの皇太子も、世継ぎを産む皇后も無く。

ただ皇女が二人のいるだけでした。






「ねえ父上。私の髪変じゃない?」


何よりも鮮やかな赤い髪を、クルクルと指に絡ませ、第一皇女のヨナ姉様は父上に呟くように尋ねた。


「変じゃないとも。ヨナの美しさはどんな宝石も敵わんさ」


ポヨヨンとした微笑みを浮かべ、穏やかに否定の言葉を述べる。


そんな微笑ましい光景を、私は一歩離れた所から眺めていた。


「顔はね。私もそこそこ、可愛く生まれたと思うわ。でもね、父上」


姉様はやはりと言うべきか、不満そうな表情は消えない。


「この髪!どうしてこう、赤毛でくせっ毛なのかしら。亡くなれた母上も、名無しさんもサラサラの黒髪なのに」

『いいえ、ヨナ姉様のお髪の方が美しいです。父上の言う通り、輝く宝石よりも綺麗だもの』


クスッと笑って、姉様の髪を褒める。綺麗な簪に美しい着物も良く似合う。どんなに派手で豪華な物も、ヨナ姉様を引き立たせる風にしかならない。


「ありがとう名無しさん。でも、ちっともまとまらない〜〜〜〜〜〜っ!」

「そんな事ないだろう。なあハク」


さっきから控えていた、黒髪の男が膝を付いて答える。


因みに私は、この男が苦手だったりする。


「ええイル陛下。姫様のお髪が変などと、誰が申しましょうか。あえて申し上げるなら−−−−−−−頭(のーみそ)が変ですね」

「お黙り下僕」


毎度毎度の事ながら、この男が来ると一気に騒がしくなる。


姉様は湯のみ茶碗やら、急須やらを投げて八つ当たりをするかの様に、物を投げる。壊したらどうするんだ。とも思うが、そんなことは杞憂に過ぎない。


「父上こいつ何とかして!従者のくせに態度でかすぎ」


父上は困った顔をして、姉様を宥める。


「まあまあ。ハクはお前の幼馴染みだろう」


この黒髪の男は、十八歳で城でも指折りの将軍。異例の若さで風の部族長を務めている天才。名をソン・ハクと言う。


「護衛ならもっと、可愛いげのある人がいい」


そう。そんな天才も、姉様の専属護衛官だったりする。


将軍が護衛というのは、些か頼りになりすぎるのではないだろうか。


「可愛いといえば、いいんですか?可愛くしとかなくて。お着きになったみたいですよ。スウォン様」

「それを早く言いなさいっ。名無しさんも一緒に行きましょ!」


いらついた声とともにお誘いされたが、止めておこう。邪魔をしては悪い。


「いえ、私は後で御挨拶しますので、行ってきてください」

「そう?なら行ってくるわ」


緩く手を振って姉様を見送った。


さて、私はこれからどうしようかな。この場に居るのは、ちょっと気が引ける。


『では、私はお暇(いとま)させて頂きます。父上、政務にしっかりお務めしてくださいね』


ハクは前から苦手だ。何でと言われると、答えられないが苦手なのだ。だから部屋から立ち去った。


『さてと。私はヨナ姉様への贈り物でも用意しよう』


さっと城の見取り図を脳内に組み立て、今日の兵の位置を確認する。スウォンが来ているから、何時もとは配置が異なる筈だ。


どの抜け道を使うか判明した。


私は足取り軽く、自室に向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ