Dream
□第一話 誕生会
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ここは高華王国。
当時王の他には世継ぎの皇太子も、世継ぎを産む皇后も無く。
ただ皇女が二人のいるだけでした。
「ねえ父上。私の髪変じゃない?」
何よりも鮮やかな赤い髪を、クルクルと指に絡ませ、第一皇女のヨナ姉様は父上に呟くように尋ねた。
「変じゃないとも。ヨナの美しさはどんな宝石も敵わんさ」
ポヨヨンとした微笑みを浮かべ、穏やかに否定の言葉を述べる。
そんな微笑ましい光景を、私は一歩離れた所から眺めていた。
「顔はね。私もそこそこ、可愛く生まれたと思うわ。でもね、父上」
姉様はやはりと言うべきか、不満そうな表情は消えない。
「この髪!どうしてこう、赤毛でくせっ毛なのかしら。亡くなれた母上も、名無しさんもサラサラの黒髪なのに」
『いいえ、ヨナ姉様のお髪の方が美しいです。父上の言う通り、輝く宝石よりも綺麗だもの』
クスッと笑って、姉様の髪を褒める。綺麗な簪に美しい着物も良く似合う。どんなに派手で豪華な物も、ヨナ姉様を引き立たせる風にしかならない。
「ありがとう名無しさん。でも、ちっともまとまらない〜〜〜〜〜〜っ!」
「そんな事ないだろう。なあハク」
さっきから控えていた、黒髪の男が膝を付いて答える。
因みに私は、この男が苦手だったりする。
「ええイル陛下。姫様のお髪が変などと、誰が申しましょうか。あえて申し上げるなら−−−−−−−頭(のーみそ)が変ですね」
「お黙り下僕」
毎度毎度の事ながら、この男が来ると一気に騒がしくなる。
姉様は湯のみ茶碗やら、急須やらを投げて八つ当たりをするかの様に、物を投げる。壊したらどうするんだ。とも思うが、そんなことは杞憂に過ぎない。
「父上こいつ何とかして!従者のくせに態度でかすぎ」
父上は困った顔をして、姉様を宥める。
「まあまあ。ハクはお前の幼馴染みだろう」
この黒髪の男は、十八歳で城でも指折りの将軍。異例の若さで風の部族長を務めている天才。名をソン・ハクと言う。
「護衛ならもっと、可愛いげのある人がいい」
そう。そんな天才も、姉様の専属護衛官だったりする。
将軍が護衛というのは、些か頼りになりすぎるのではないだろうか。
「可愛いといえば、いいんですか?可愛くしとかなくて。お着きになったみたいですよ。スウォン様」
「それを早く言いなさいっ。名無しさんも一緒に行きましょ!」
いらついた声とともにお誘いされたが、止めておこう。邪魔をしては悪い。
「いえ、私は後で御挨拶しますので、行ってきてください」
「そう?なら行ってくるわ」
緩く手を振って姉様を見送った。
さて、私はこれからどうしようかな。この場に居るのは、ちょっと気が引ける。
『では、私はお暇(いとま)させて頂きます。父上、政務にしっかりお務めしてくださいね』
ハクは前から苦手だ。何でと言われると、答えられないが苦手なのだ。だから部屋から立ち去った。
『さてと。私はヨナ姉様への贈り物でも用意しよう』
さっと城の見取り図を脳内に組み立て、今日の兵の位置を確認する。スウォンが来ているから、何時もとは配置が異なる筈だ。
どの抜け道を使うか判明した。
私は足取り軽く、自室に向かった。