夢 短め

□狐の婿入り4
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『広い場所の方が、じっくり観察出来る』
『えー、観、察……』
観察って。
古橋の価値観は謎すぎて、度々言葉に詰まる。
花宮も無言。
呆れてるのかと思えば、ぼふりと煙を出して狐になった。
狭い空間での煙は、けっこう迷惑なのに。
煙を手で払ってたら、花宮はどさりと倒れこんで。
頭を私の膝に乗せた。
『何?』
『好きなだけ触れ』
『……何がしたいの?』
『光夏は、もふもふなら冷たくしねぇだろが』
『花宮が紳士なら、冷たくしないよ』
『俺は俺だ。撫でろよ、光夏』
『小さくないと、可愛くないんだよ』
『手触りは、こっちのが勝んだろ』
確かに。
花宮の頭を撫でる手は、とまらない。
何せ天然物。
一点物で、最低価格数百万以上の価値だと思えば、尚更だ。
『最高か?』
『最高級すぎる』
『ふはっ、プライスレスだろ』
『喋んなきゃね』
『噛むぞ』
『噛んだら膝から落とす』
『落としたら犯す』
『ほら。喋ると最低だ』
『黙って撫でろ』
『はいはい』
『タダでもふもふし放題だぞ。もっと喜べよ』
『喋っちゃダメ』
『ふざけんな、んー』
顔周りを念入りに擦ると、花宮は仰け反る。
『耳の後ろ好きだもんね』
『ン、ンー』
『光夏。そろそろこれが必要だろ』
古橋が差し出したのはタオル。
妖狐は心底リラックスすると、涎を垂らす。
『俺をそこらの輩扱いすんな』
『光夏、この先は車が揺れる。花宮が舌を噛まないように、気をつけてくれ』
『古橋。耳噛み千切るぞ』
『光夏、涎が垂れるまでがっつり解してやってくれ』
『仕方ねぇな。そら、解せ』
『偉そうに』
『偉いんだっての』
『わっ』
道が悪いようで、ゴトゴトと大きな振動に、自然に手でドアを押さえる。
『心配すんな』
八尾が私の体を包む。
『妖狐国に、電動車事故はねぇ』
『一件も?』
『あぁ。自己防衛の妖術は、禁止されてねぇしな』
『車なくても、移動できるよね?雲とか霞とかで』
『俺はな。交通機関や車は、妖力の低い妖狐のために導入された』
『国家的事業?』
『そうだ。国民への福利厚生は手厚い。異界から嫁に来ても、快適に暮らせる。気軽に嫁いでこい』
『どんだけセールスするの』
『妖狐国の案内の一つだ。聞くだけ、聞いとけ。そして解せ』
『俺様狐め』
わしわしと胴体を解してる間に、車は川と平行して進む。
清流の上流では、水晶や希少価値が高い翡翠が採れるという。
『水晶は、花宮家の主力産業。妖狐国の必需品でもある』
通信手段で、水晶を使う。
ビー玉から鶏卵大だと会話のみ。
掌大だと姿を映しての会話や居場所の特定も可能。
『お前が観た街頭テレビも、画面は水晶でできてる』
『あんな大きな水晶、あるの?』
『妖術で、色々な形状に加工してる』
『化けるだけじゃないんだね』
『知能と妖力が高いからな』
『どんだけ自慢すんの』
『お前が嫁に来るまでだ』
『それ洗脳じゃん』
『事実を伝えてるだけだ』
『フリーク発言にはついてけない。次はどこ行くの?』
『屋敷に戻る。今日の見学は十分だ。古橋』
『承知』
古橋が運転手に何語かを語りかけると、車は川から離れ始め。
整備されてる道に出ると、スピードを上げた。
行く時よりは時間をかけずに都市部に戻ったと思う。
『『『『『『『『『若様、お帰りなさいませ』』』』』』』』』
再びの出迎えも、これまた大人数だった。
『お食事のご用意はできておりますが、すぐに召し上がられますか?』
『虫は抜いたか?』
『はい。木の葉もお抜きしております』
『ん、食事は後にする。先に部屋に連れてく』
『かしこまりました』
『光夏、靴脱いであがれ』
『あ、うん』
脱いだ靴は、どこかから現れた使用人が片付けてしまった。
『今のも、妖狐?』
『違う。ほら、行くぞ』
花宮に手をひかれて、廊下を進む。
洋風の外観とは真逆に、奥に進むほどに内装は和風。
廊下は、板の継ぎ目が判らないほど磨きあげられてる。
障子はなく、遣戸?
蔀?
寝殿造、なんだろうか?
『今日はここで寝ろ』
美しい畳が20枚くらい敷かれた部屋に、すでに布団も敷いてあった。
『ど真ん中って』
『端で寝てぇなら、寄せりゃいい。飯の前に風呂だな』
『いい。着替え持ってきてないし』
『浴衣くらいある』
『下着がないもん』
『浴衣に下着は不要だろ』
『私、現代人』
『情緒がねぇな。ま、お前のサイズでもすぐに用意できる』
『え』
『妖狐も、乳のでかいのは多い。Gでアンダー』
『エロ狐』
『エロくねぇ。ただの情報力だ』
『他人の個人情報を口にしないで』
『未来の嫁の体型把握だ』
『妄想やめなさいよ』
『予知だ』
『呪いだ』
『逆だ、バカ。天界からメチャクチャ祝福されるっての』
『何で?』
『妖狐は、神と親密だからだ』

2021.8.13
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