夢 短め

□狐の婿入り3
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色は塗られてなく、象形文字のような模様がびっしり書かれている鳥居。
これが門か。
テントの奥、テントからしか繋がってないなら、外からは見えないわけだ。
『どうした?』
『……行きたくない』
近づけば、奇妙な気配の鳥居で。
『すごく嫌な感じがする』
第六感が働いてる。
踏み出せば、危険。
進めば命に関わる、と。
『やっぱり行かない。家に帰る』
『大丈夫だ。口開けろ』
花宮の指には、とても大きな桃色の金平糖。
『妖孤の国に着くまで、少し空気がよくねぇだけだ。これを噛まずに舐めてれば、危険はねぇ。念のため、俺から離れるな』
『ん』
口に含んで、頷く。
『桃』
『旨ぇだろ』
『うん』
『なら、いいな』
腰を抱えられて、一緒に踏み出すと。
ぞわりと、生温い空気に包まれた。
『……吐きそう』
胃を揉まれるような不快感に、足が止まる。
『もう一つだ』
花宮は、金平糖を私の唇に押し付ける。
『何か、いるよね?』
カサカサと音を立てて動く、小さな何か。
『異界往来は、大妖怪でも許されてねぇ。異界を繋いでる空間には、生命力を喰らう小鬼がいて、迷いこんだ生き物の命を吸う。見えても叫ぶなよ』
『叫ばない、けど……』
胃の不快感で意識を失いそうだ。
『喋るな。ほら、もう一つ』
三つ目の金平糖を口に入れてくれたけど、足は動かない。
『ちっ。やっぱ俺の邪魔をできなくて、お前を狙ったか。古橋、二重結界張れ』
『判った』
『山崎、半径100キロ焼き払ってこい』
『任せろ』
『光夏。俺の勾玉は?』
『家……』
『このバカ、いつも身に付けとけって言ったろが』
『大丈夫だ、花宮。勾玉は瀬戸の首の巾着に入れてきた』
『バッカ、古橋。喋ってないで早く結界張れよ』
『だが、勾玉を光夏に渡さないと』
『そんなの俺がするって。結界張れないと、ザキの炎で焼き狐になっちゃうじゃんか』
原が、錦糸の巾着から麹塵色の勾玉を取り出す。
『ほい、花宮』
『ほら。二度と手放すな』
勾玉を握ったら、一気に不調が治まった。
『はぁ……』
『動けるな?』
『うん』
足元に密集してる、蛙のような代物達も見えた。
『グロ』
『話の小鬼だ。霊力に集まってくる。古橋、早くしろ』
『小鬼が集まりすぎて、精密に重ねるのが難しい』
『凝らなくていい』
『花宮、ザキの火炎来るよん』
ぴしりと音がして。
どろり、と。
小鬼が溶けたように消えた。
『間一髪じゃん』
轟音と共に、青い火柱が何本も乱立。
見えない壁にぶつかった衝撃音に、背を丸める。
透明な壁は、古橋の結界だ。
目を凝らせば、古橋のオーラと同じ色をしてる。
『この金平糖、邪気払いなの?』
舌で転がすと、桃の味が強まる。
『サンショウウオの作る、桃珠だ。勾玉が効いてりゃ、もう用ねぇだろ。返せ』
唇が近づく。
『セクハラ狐』
『一粒いくらすると思ってる』
『知らないよ』
『日本円にして、200万はするぞ』
『に、百』
今、600万円を口に入れてるって事?
『返す気になっただろ?』
『早く行こう』
『一粒くらい返せよ』
『やだ』
『いちゃつくのは着いてからにしろ』
『わっ』
瀬戸がバスほども巨大な狐になって、尻尾で私達を次々に背に投げ運ぶ。
『えーっ』
『すげぇな』
『瀬戸ってば、いつの間に巨大化覚えたのさ?』
『先月だ。光夏の側にいて、妖力が急激に増幅した』
『そういや、俺の火炎も威力増してるよな?な?』
『俺だけ、変わんないって事?光夏ちゃん、贔屓しないでよ』
『してないよ』
前に二匹。
後ろに花宮。
古橋はその後ろだろうか。
離れすぎてか、見えない。
瀬戸はかなりの速度で走ってると、顔にあたる風で判る。
でも、体が揺れたりしない。
妖術なんだろうか。
『ねぇ。あの門が、妖孤国の出入口?』
距離は判らないけど、前方に門が見えてきた。
『そうだ……』
『距離感が確かじゃないけど、大きいね』
『どこまで見える?』
『どこまで?』
『材質、色や模様は?』
『木の門で、色は塗られてないよね?』
寄せ木細工のような、精密な図形が彫られている大きな門。
『枠全体に、曼珠沙華みたいな花。壁には百合?』
『そこまで見えんだな』
『み、見えたら、ダメなの?』
呪われるとか?
『いや。見える方がいい。霊力が高くねぇと、穴にしか見えないらしいからな』
『ふぅん』
『お前は正真正銘、桜町の人間って事だ』
『白河なのに』
『血は否定できねぇって事だ。体調は悪くねぇか?』
『うん。大丈夫……こっちには管理門ないの?』
白いテントを探す。
『あの門自体がそうだ』
『来る時とは、随分規模が違うんだ』
『妖狐は異界との出入りが多い種族だ。交流が多い国の門は、必然的にでかくなる。今は、数百の国と国交がある』
『数百』

2021.6.8
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