夢 短め

□君が好き
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『どうせなら、ランチも仕事にしちゃった方が経費で落とせるなって』
『それ、言っちゃいますか』
『経営者は税金対策もしないとならないんだよ。シロちゃんも自分の昼食代使って金額決めて探索するより、美味しそうだと思った物見つける方が楽しいだろ?だから、明日からのランチは補填分とは別にして、後日現金精算。あれ、花宮君』
『どうも』
『すまないね。今日はもう終了なんだよ』
『聞きました。10日間飲めないんですね』
『コールドでいいなら、テイクアウトできるよ』
『多目にお願いします』
あれ、冷たいのも飲むの?
ホットしか飲まない常連なのに。
湯煎すれば、ホットにできるか。
『中入って。シロちゃん、お疲れ様』
『はい。お疲れ様です』
終了のプレートを提げて、店内に戻る。
花宮君が追うように入店してきて、カウンターに立つ。
やっぱり高校生だなと納得しつつ、更衣室に入った。
ロッカーを開けて、エプロンドレスを脱ぐ。
目立つ汚れがないか確認してから、ハンガーにかける。
先週1回と今日しか着てないから、まだクリーニングはいいか。
私服を着て、ロッカーを閉じる。
鞄を肩にかけてたら、スマホが鳴った。
LINEだ。
靴を履き替えながら開けば、会社の元同僚。
急だけど、再来月には結婚するので、披露宴に来て欲しいと。
『わ』
ご丁寧にベビーのスタンプも。
『オメデタ婚か。奏ちゃん、計画的な性格だったのに』
将来設計を緻密に立ててた几帳面な人柄と、同じ年な事に驚きつつ、更衣室を出た。
『お先に失礼します。ブラジルの警察に拘束されないように、気をつけてくださいね』
『今回は仲間3人と同行だから、心配いらないよ』
今回はって、言った。
ないって言ってたくせに、やっぱり拘束された事あるんだ。
マスターはポルトガル語はもちろん、英語も危うい。
コアな地域に侵入してでも豆を探すので、職質は当たり前と専通さんが言ってた。
豆やメイド服へのこだわりや熱意を、語学力にも回せばいいのに。
『……お先に失礼します』
外へ出ると、夕焼けにもまだ早い。
『結婚祝い買わないと。や、出産祝いか?』
奏ちゃんの欲しい物なら、鮮やかな色彩の食器かな。
明日からの買い出しのついでに、探してみよう。
帰宅して、ビールを飲みながら吉祥寺駅周辺のショップマップを見る。
スニーカーは持ってないから、低反発の中敷きを通勤用に使えばいいか。
西側から回ろうと決めて就寝した。

初日は、スマホ片手に見て回るだけ。
店名と商品の金額をメモし、手にとって重さや質感を確認。
どの店も品物が豊富で、目移りする。
メモもあっという間にかなりの枚数になった。
目についたカフェで休憩。
ブレンドコーヒーを頼んで、メモを整理。
『残り半分か。ご飯食べてからだな』
ランチは、サンドイッチを探してみた。
目についた店頭のイーゼルをスマホに収めまくった。
写真やパステルアートには、詳細な中身や店の売り、具材の売りも明確に書かれてて、メモしなくていいのが嬉しい。
後だと見せ忘れそうなので、オーナーのパソコンに都度送っておいた。
オーナー希望の野菜たっぷりの品は、イケメンだけで運営してるっぽいカフェで発見した。
30種類もの有機野菜を使って、切り口の厚さは五センチにもなる芸術的なサンドイッチ。
味は既製品の紫蘇ドレッシングだけでも、お洒落感は満載の一品だった。
ジュースの種類も多くて、ターゲットは女性客と判りやすいカフェでもあった。
お一人様でも入りやすかったのは、イケメン目当てに通ってるお一人様ばっかりだったからでしかない。
テーブル席も二人がけが主流だったし、うん、そういう事なんだ。
低価格なホストクラブ。
吉祥寺、恐るべし。
そんな事を考えつつ、残りの店を回った。

二日目は東側に。
少し、購買層が違う品揃え。
食器よりも、装飾品が多い。
皿を買うなら、西側になりそうだ。
ランチは定番中の定番、オムライスを探した。
見た目やソースの種類に力を入れてる店が多い中、食材の安全性にこだわってる小さな喫茶店を見つけた。
ショップマップにはなかったから、オーナーと似たような経営者なのかも。
知る人ぞ知る的な。
食材の出所や生産者を表示している手作りのメニュー表で、オムライスを確認。
契約している郊外の養鶏場で朝採りした卵、鶏肉も同じ生産者。
米は北海道産のななつぼし。
玉ねぎ人参は千葉産。
バターは埼玉の牧場から運んで貰ってる牛乳から手作り。
ケッチャプだけはハインツの既製品だけど、オーナーさんがハインツ製品のコアなファンと書いてあるから当然だよね。
よくよく店内を見回せば、ハインツのノベルティが各所に密やかに飾られてる。
無意識に、オーナーと同類の香りに呼び寄せられたのかも。
だとしたら、嫌だなぁ。
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