夢 短め

□罰ゲーム
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回避か、受難か。
花宮とつきあうか、花宮のファンに貶められるか。
最悪な2択だった。
どっちも選べない。
『何がそんなに嫌なんだよ』
『え』
『俺をふる理由はなんだよ』
花宮が腕を組んで睨む。
『理由……』
『聴く権利はあんだろ。俺は本気で告白したんだからな』
クラスメイトだけど、花宮の事はよく知らない。
学年トップで、イケメンで、バスケ部で、モテる。
横暴で、言葉遣いと目付きが悪いのはさっき知った。
『妬まれたくない、かな』
『それだけかよ』
『それが一番厄介でしょ。独り占めしてどうなるかって、自分でも言ったじゃん』
『俺が自分の女守らねぇと思ってんのなら、大きな間違いだ』
『ファンがヤバイって脅したくせに』
『……その問題がなかったら、つきあえんのか』
花宮が俯いて髪をかきあげる。
『花宮の事、そういう対象に見てなかったから……』
『一週間考えるとか、友達からとか。期間限定でお試しとかねぇのかよ』
子供が拗ねてるみたいだ。
『あのさ、私、花宮に好かれてる理由が判んないんだけど。花宮と接点あったっけ?今年、一緒のクラスになっただけだよね?』
実際、霧崎には中学バスケ界で有名な花宮の追っかけで入学した子も多いらしいけど、私は無冠の五将なんて聞いた事もなかった。
『理由なんてねぇ。好きだから好きでしかねぇし』
花宮は頭を掻いた。
『強いて言うなら、容姿がタイプ、だな』
『私、花宮のタイプなの?』
『そう言っただろ』
恥ずかしいとか嬉しいとかより、へぇーって感じ。
不細工ではないと思うけど、あくまでも平均値。
イケメンに選んで貰える容姿とは、思ってもなかった。
『一ヶ月つきあえ。好きにさせてみせる』
『ゴメン、ムリ』
『即答かよ』
『四面楚歌でつきあったら、花宮を頼るしかないもん。守られたら、好意的になると思う。でも、それって洗脳とかわらないよ』
花宮は口許に手をあてて聞いてる。
『恋愛を語れる程の経験値はないけど、好きって自然に理解するものだと思う』
『別な形で俺が告白してたら、つきあったか?』
『……多分、ない』
『だろうな』
目を細めて頷いた花宮は、扉に向かう。
『暗くなる前に帰れ』
『え』
『なかった事にしてやる。二度とくだらねぇ罰ゲームすんな。こんな事してて、逆上して襲われねぇとも限らねぇだろ』
『い、いの?』
『いいも悪いも、仕方ねぇ』
嫌われたくねぇんだよ。
花宮はそう言って扉を開けた。
待ってるのは栞。
『二人とも気をつけて帰ってね』
花宮は体育館の中へ消えた。
『どうだったの?』
『……したよ。種明かしをしたら、気にしないって』
まさか、花宮に告白されたとは言えない。
『そう。現場は確認できなかったけど、終了ね』
『うん……ね、私達4人以外に何かするのはやめよう。本気にする人がいたら、不味いもん』
閉じられた体育館の扉を見つめて、私はそう決めた。

ウノは復活した。
罰ゲームは4人の中で終わるようにした。
一ヶ月ビクビクしてたけど、花宮とも以前通り、只のクラスメイト。
なかった事にしてくれた花宮に、感謝しかない。
『今日さぁ、マリブでアイス食べない?』
栞が法事で休みの日だった。
放課後、水樹が寄り道を提案。
麻友と頷きながら鞄を持った私を、大きな手が引き留めた。
手の主は花宮で。
花宮は、私の机に鞄を置いた。
『光夏、部活がないから一緒に帰ろう』
クラスの視線が一斉に刺さった。
『え、どういう事?』
麻友が私を見る。
『ああ、俺達つきあってるんだ』
『『『『『『ええー!』』』』』』
女子達が叫ぶ。
私も叫んだ。
『は、花宮。何言ってるの?』
『周りに黙ってる約束だったけど、光夏を他の奴に触られたくない。だからもう隠さない事にした』
花宮が、極上の笑みを浮かべて私の頬を撫でる。
悲鳴が教室に響き渡った。
私は花宮の腕を掴み、急いで廊下に連れ出した。
小走りにクラスから離れる。
『何なの?一体』
私は空き教室で花宮を問い質した。
『四面楚歌にしただけだ』 
『は?』
『四面楚歌で俺に守られたら、俺に好意的になんだろ?』
それって。
あの時、体育館で私が言った……。
『あれ、は』
花宮は極悪人としかいえない顔で笑ってる。
『お前、自分で攻略法言うから、愉快だったぜ』
あの時。
口許に手をあててたのは、笑いを隠すためだったのか。
『一ヶ月、じっくり計画を練った。逃がさねぇ。ま、逃げた方が酷い目にあうよな。さっきのあの反応からして、周囲の嫉妬は相当だよな。友人も離れるかもな』
『そんな』
『安心しろ。俺の女に手出しはさせねぇ。俺の愛に溺れろ光夏』
花宮は私を両手で閉じこめた。

罰ゲーム。
遂行したのに罰を受けるなんて。
相手が悪すぎた。
花宮が私に飽きる日は来ない気がした。


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