夢 短め

□狐の婿入り4
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30分ほど走った集落は、大きな植物園を皮切りに養鶏場。
酒蔵。
各種の穀物庫と、大きな施設が点在してた。
『この辺りは、穀物の実りがいい。米、麦、蕎麦は、他家領よりも評価の高い銘柄が揃ってる。優良農村だぞ』
『並んでる平屋って、妖狐が住んでるの?』
似たような木造の建物が、一定の間隔で建ち並んでる。
『そうだ。主に、農民達だ』
『農民じゃない妖狐もいるの?』
『川で漁をする者。山で猟をする者。工場や鉱山で働く者。護衛、踊り子、様々だ』
『人間みたい』
『生活環境は似ているな。この地域は、さっきの店の奥にあった山の向こうまで、花宮家の領地だ。他の領地と合わせると、一億三千万の領民が暮らしてる』
『い、一億?』
国民の20分の一が花宮家の領民?
セレブなわけだ。
領地と言うからには、税収入だけでもかなりだろう。
『家の領民は、比較的、裕福に暮らしてるはずだ。中央にも、交通機関一本で往復可能に設備投資もしてるからな。休みに利用できるサービス業や娯楽も、低料金で楽しめるように公示してるし』
『ふぅん。あ、子供だ』
車窓ごしに過ぎ去る人型。
大人と子供が混じってたけど、尖った耳とふさふさの尻尾が、妖狐と主張してる。
『また尻尾に涎か、光夏』
『犯罪者扱いやめてよ』
『俺の尻尾だけに尽くすなら、犯罪者にならなくて済むぞ』
『考えとく』
『ふふん』
『皆、似たような風呂敷包みを持ってたね』
『ありゃ、弁当だ』
要所で妖術指導学校があり、週4で登校するらしい。
『妖狐も、勉強するの?』
『妖力は常識的に使いこなせねぇと、自分も他者も傷つける事になる。知能の高い妖怪ほど、社会性を重んじる。妖術の悪用や暴走を、初期教育で抑止する』
『大人も通うの?』
『防犯を兼ねて、指導者達と帰宅してんだ。親が迎えに来たりもする。子供は宝物だからな』
『妖力があるとなったら、愛情深いんだね』
『いい話してんのに、嫌味言うな』
『子供が学校に通えるのは、裕福な証拠だろう。働き手として、搾取されてない確実な証だ』
確かに。
『花宮、いい領主なんだね』
『結婚してやるぞ』
べろりと頬を舐められた。
妖狐のスキンシップは、犬猫と大差ない。
口にすると、怒鳴って否定するけどね。
片手で花宮を押し退けると、舌打ちして座り直した。
『立派な木が多いね』
民家の軒先や横には、胡桃やブナの木が目につく。
『家庭で消費する木の実は、各家庭で自前採取、保存する』
妖狐国の樹木は、人間界の10倍量で実をつけるという。
4、5世代同居の10人家族が、一年間しのげる量だそう。
『土地のゆとりがあれば、子供の誕生祝いに銀杏、桜桃、梅や柿、琵琶、桃を植えたりする』
『ホントに、人間界と変わらないね』
『人間は、妖狐にとって、愛着のある種族だからな。家の両親は、俺が生まれた時に銀杏を植えた』
『古橋ん家のギンナンは売り物になる旨さだぞ』
『へぇ』
焼くのか、茶碗蒸しの具にするのか。
食べてみたい。
『花宮の家の桃こそ、売り物になる高級品だ』
『水分補給にゃいいが、3日も食ったら飽きるっての。ま、旬と言えば今が旬だな。今晩、食わせてやる。桃嫌いじゃねぇもんな、光夏』
『家庭の木で、美味しい桃なんて収穫できるの?』
『帰ってからのお楽しみだ』
田園集落の次ぎは中央に向かわず、川沿いを通過。
『この川は屋形船が楽しめる』
『透明度高いね。メダカいる?』
『腹の足しにならねぇだろ』
『食べないよ』
『今は腹一杯だもんな』
『お腹空いても、メダカは食べません』
『白魚の踊り食い大好きな残酷女なのにな』
『うるさいよ。古橋、席変わって』
『そこが嫌なら、俺の膝に座らせてやる』
『触るな、セクハラ狐』
『ほら、特等席だ』
強引に体を引きよせるから、耳朶を摘まんで引っ張る。
花宮の眉間に、深いシワがよった。
妖狐の耳を攻撃するのは、お前より上だぞという誇示だから。
『離せ』
『花宮が離しなよ』
『大人しく離さねぇなら、犯すぞ』
『そんな事したら、耳噛み千切ってやる。両方とも』
『やってみろ。人間に、妖狐の耳噛み切れるほどの咬合力があると思ってんのかよ』
『あるかもしれないでしょ』
『ふはっ、ねぇよ、バァカ。上位妖怪がそんなヤワなわけねぇわ』
手を振り、ゲラゲラ笑いだした花宮の指を掴んで、思いきり噛んでやった。
『じゃれんなよ』
痛がるどころか、気持ちよさげな顔をする。
『お前が噛んだって、愛撫にしかなんねぇんだよ』
言って、私の腰を撫でてきた花宮。
『古橋っ。花宮が』
『花宮、そんな狭いところでいちゃつかなくても、屋敷に帰れば好きなだけ光夏といちゃつけるだろう』
もはや、どこ向いてるか判らない古橋の発言に、花宮のセクシャルな対応への焦りや恐怖は消えた。
『広さに何の意味あるの?』

2021.8.11
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